メディアフォーカス

仕込みや取材不足相次ぐ放送倫理,現場への浸透まだ不十分

仕込みや取材不足によるコメントの誤りなど放送番組での不祥事が相次いで明るみに出ている。

BPOの「放送と人権等権利に関する委員会」は11年2月8日,テレビ朝日の報道番組『サンデープロジェクト』が10 年2月28日に放送した特集「密着5 年 隠蔽体質を変える~大学病院医師の孤独な闘い~」で,放送倫理上問題があったとする審理結果を公表した。問題となったのは,1998 年に金沢大学付属病院で起きた「患者の同意なき臨床試験」をめぐる民事訴訟と病院側の対応を取り上げた部分で,取材を受けた付属病院の教授が,実名,映像入りで過去の行動を報じられ,しかも早朝に直撃取材されたのは,人格権侵害であり,放送倫理に違反するとBPOに申し立てていた。

同委員会は,過去の事件であっても,医療過誤事件に関する医療界の隠蔽体質を報じる特集全体の構成からして取り上げることには公益性があり,早朝のインタビュー取材も路上で行われ,強要したものとはいえず,人格権の侵害は認められないと判断した。

しかし,インタビューの放送内容は,改ざんではないと主張する教授の発言に対して,「判決が確定してなお,改ざんを否定する教授」というナレーションで締めくくられ,真実の解明,教授に反論の機会を与えるという番組目的に沿ったものとはいいがたく,教授への一方的非難,制裁的な表現になっており,放送倫理上問題があると指摘した。

また,民事訴訟の地裁・高裁判決に関して番組は,一審判決が「患者に説明と同意を得ずに臨床試験を行ったとし,病院側に165 万円の支払いを命じた」と伝え,病院側が高裁に控訴したが患者側が勝訴し,病院は上告を断念した,と報じた。

同委員会は,高裁判決では,患者への説明義務はあるが臨床試験とはいえないとして遺族側の主張を認めず賠償金額も72万円に減額したのであり,上告して棄却されたのは遺族側であったという事実を伝えていないのも放送倫理上問題があると指摘した。

さらに,カルテを改ざんしたと報じたが,裁判で争点となったのは説明義務違反であり,手続上の書類である症例登録票の偽造疑惑を診療記録である「カルテの改ざん」と表現したのは不適切であったと指摘した。

審理結果からは,病院の隠蔽体質を告発するという特集のテーマに沿っての表現が優先され,教授の反論をきちんと報道する姿勢の欠如が浮かび上がっている。また,民事訴訟については,双方の主張に対立があるだけに詳細な取材が必要であるにもかかわらず,十分な取材を行っていなかったことが明らかになった。同委員会は「問題意識に基づいて専門分野に切り込もうというのであれば,取材努力を尽くし,とことんまで事実を正確に把握し,いやしくも視聴者の印象を誤まらせたり,事実関係について当事者から指弾されるようなことがないように努めるべきである」と指摘した。

BPOの「放送倫理検証委員会」は,大阪の毎日放送が10 年11月17日にバラエティ番組『イチハチ』で,富豪の女性が九州にあるホテルを買収するために折衝している様子を放送したが,作り話ではないかと視聴者から指摘があった事案について審議することを決めた。『イチハチ』では,11年1月12日に女性タレントがアメリカに所有していると報じたマンションが他人名義だった可能性が高いことが明るみに出ている。

また,テレビ東京が10 年11月8日に情報バラエティ番組『月曜プレミア! 主治医が見つかる診療所』で,酵素飲料を飲んで断食をした女性がダイエットに成功したと紹介したが,成功した女性として登場したのは酵素飲料販売会社の社長だったことが判明した事案を審議することを決めた。

このほか, 日本テレビの報道番組『news every サタデー』が11年1月8日に放送したペットビジネス特集のなかで,ペットサロンなどを運営する会社の社員を利用者として出演させていたことが分かり,同局が謝罪した。

「放送倫理検証委員会」は11年2月16日,やらせ取材が指摘された『Mr.サンデー』の女性誌特集の不適切表現問題で再発防止のために作成したフジテレビの社内研修用報告書を同局の了解のもとに公表した。公表の理由として同委員会は,今後同様の事案が発生した場合の参考になる,現場がそれぞれの番組で再発防止策を考え出すことを求めている,などをあげている。

フジテレビと関西テレビの共同制作である『Mr.サンデー』は,10 年8月8 日と9月26日にヒットしている女性誌特集を放送したが,女性誌が付録につけているファッションバッグの人気を紹介する際に,「事前リサーチで探し出して現場に来てもらった取材対象者の雑感取材やインタビューを,偶然,現場に居合わせたように放送したり,流行の度合いを表現するために行った定点観測の数値を水増し」(フジテレビ報告書)したりした。

フジテレビは,関西テレビやBPOの元統括調査役を含めたプロジェクトチームを編成し,不適切表現がなぜ生まれ,どのように放送にいたったのかについて調査・再発防止の報告書をまとめた。

報告書は,

① 事前リサーチで探し出した取材対象者とその場に居合わせた一般の人を放送上で区別する意識が欠如していた。数を水増しして表現することに抵抗がなかった

② チェックが甘かった。「おかしい」という情報をすくい上げられなかった

③ 編集作業がプロダクションの担当ディレクター一人ですべて行えるため,撮影素材の不適切使用のチェックができなかった

④ 不自然な取材状況が番組責任者に伝わらなかった

⑤ 番組スタッフの取材・放送倫理の共有が不十分だった

などをあげている。

そして再発防止の指針として,

① 事実を伝えるという番組の基本姿勢を常駐スタッフの心構えとして徹底する

② 制作プロダクションのプロデューサー,ディレクター,アシスタント・ディレクターに対しても取材・放送倫理を共有する

③ 撮影・編集をディレクター一人で行うことに関する危機管理を徹底する

④ 撮影・編集現場から情報収集を細かく行う

⑤ プレビュー時のチェックを厳しくする

などを示している。

そして,現場の各番組で,再発防止の指針を参考に話し合い,「これでいいのか」と自分に問いかける作業を行うよう求めている。

奥田良胤