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中国,広東語チャンネル“廃止”案に反発

中国南部広東省の広州市で7月5日,政府の諮問機関である政治協商会議が会合を開き,広州テレビの一部のチャンネルの使用言語を,地元の広東語から中国の標準語である北京語に切り替える提案が出された。ところが政治協商会議委員の一人韓志鵬氏がこの提案に対し,ミニブログの中で「我々の母語が危ない」と訴えたことから,数時間のうちにこのミニブログに1,000件のコメントが集まったほか,その内容がネット上で大々的に転送され,広東語チャンネルの“廃止”に反対する意見が急速に盛り上がった。11日に広東省の南方テレビが視聴者を対象に「広東語は本当に危機に瀕しているか?」について意見を受け付けたところ,30分も経たないうちに5,000以上の視聴者から同意する意見が寄せられた。

中国では,1949年の中華人民共和国建国後,北方の北京語を標準語として普及する政策が進められてきたが,広東省や隣の広西チワン族自治区などでは,多くの住民が日常的に広東語を使ってきた。また1979年に改革開放が始まって,経済特区を深・珠海・汕頭に設置した広東省では,香港・マカオ資本の導入が重視されたこともあって,香港やマカオで使われる広東語はむしろ重宝され,現在も地元の広東テレビや広州テレビの基幹チャンネルは,いずれも広東語で放送が行われている。

しかし広州では,広東省外から来た人も常住人口1,400万人の約半数を占めるほか,11月にはアジア大会が開かれ全国から多くの観客が集まるとみられることから,政治協商会議では,広州テレビの総合チャンネルかニュースチャンネルの使用言語を広東語から北京語に切り替える,もしくは正午から午後2時までと午後7時から10時までといった時間帯を区切った形で北京語の放送にするという提案を行ったものである。

ところが広東人の間では,もともと自分たちこそ中国人の本流という意識があり,広東在住のある日本人によると,広東人が広東語で会話する際は「北京は別の国,我々の首都は香港」という合言葉まであるという。その一方で広東語がかつて普及していた広西チワン族自治区では,使用言語に北京語が占める比重が高まりつつあり,広東人の間では,言語が次第に使われなくなることで自分たちの独自の文化も失われかねないという危機感が高まったと思われる。

この問題では,広州市科学技術協会主席の鍾南山氏など著名人が広東語放送廃止に反対したことや,ネット上で反対の声が盛り上がり,デモまで起きる事態となったことなどから,広州テレビや中国共産党広州市委員会の責任者が広東語放送を北京語に切り替える計画はないと表明,当面は現状維持の方向で一段落した。その背景には,政府当局が広東人の地方主義的な意識をこれ以上あおらないよう配慮したことがあるとみられるが,もう1つの現実的な要因としては,広東省では広東語放送の視聴率が北京語放送より高いことがある。広州テレビは2009年,アジア大会の準備として,それまで広東語で放送してきた経済チャンネルを北京語に切り替えて放送したのだが,視聴率は0.34%から一気に0.09%に低下,今年から再度広東語放送に戻した。

今回の問題では,広東省以外の出身者の利便性と,地元の言語・文化の保全をいかに両立させていくのかが問われる形となった。

山田賢一