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中国,視聴率調査をめぐるテレビ局の不正発覚

中国で,一部の地方テレビ局の全国向け衛星チャンネルが,民間の調査会社が行っている視聴率調査の対象家庭に金品を配るなどして,自社のチャンネルを長時間視聴するよう求めていたことが明らかになった。

この問題は中国共産党の機関紙人民日報が7月1日から数回にわたって特集したもので,報道では,実際に地方テレビ局の全国向け衛星チャンネル担当者から働きかけを受けた一般の視聴者も,匿名で取材に応じている。この視聴者の証言では,調査会社が測定機器を自宅のテレビに取り付けたあと,全国向け衛星チャンネルからの番組視聴を求める働きかけが相次いだ。ある担当者は,夜の8時から9時半の番組を視聴すれば記念品をもらえると述べ,実際に視聴すると1か月後にお茶の葉を送ってきた。その後番組視聴の要求はエスカレートし,謝礼も現金で月200元(約2,600円)となった。こうした番組視聴を求める電話は本人が受けただけで5~6局からあったほか,子どもが受けた電話も多かったという。

不正が発覚した経緯として人民日報は,最近の視聴率調査の数値に異常値が出ていたことを挙げている。例えば青海省の玉樹地区で起きた地震の哀悼日とされた4月21日の夜は,地方局の衛星チャンネルは中国中央テレビ(CCTV)のニュースチャンネルが制作した番組をそのまま中継する義務を課せられていたが,一部の地方局の衛星チャンネルの視聴率はCCTVより高くなっていたのである。

視聴率調査をめぐる不正の報道については社会的な反響も大きく,中国でほぼ唯一の包括的な視聴率調査会社であるCCTV系の「央視-索福瑞」は7月16日,「視聴率調査の数値の正確さ維持」を目的とする座談会を実施した。席上,同社の王蘭柱社長は,人民日報の一連の報道について客観的で公正なものと述べ,報道内容が基本的に事実であることを認めた。そして王社長は,今後視聴率調査の数値をねじ曲げる行為への有効な対策を取ると述べた。

視聴率調査をめぐる不正が横行する背景には,調査が事実上1社独占の形で行われていることや,調査対象となる家庭の数が人口 1,000万人の大都市でも500以下にとどまるなど,不正のコストが低いことがある。ただ,より根本的な問題は,改革開放の実施以降,中国の放送局の収入の大部分が広告になり,視聴率競争が激しくなったことである。特に地方の省レベルのテレビ局は,受信不良への対策だった衛星チャンネルの整備が1990 年代に各省で進んだあと,湖南テレビなど一部のテレビ局が番組内容を全国の視聴者向けに作って広告収入を飛躍的に伸ばしたことから,他の局もそれぞれ1つ保有する全国向け衛星チャンネルの視聴率を重視するようになった。今年に入ると,互いに未知の男女がテレビ番組の中で,司会者の質問に答えながらカップル誕生を目指す「即席恋愛番組」が,江蘇テレビなど各局の間で流行,これに対し国家ラジオ映画テレビ総局が6月2日以降,こうした番組では一部の出演者が自分の経歴について“ほら”を吹くなど低俗化が目立つとの通知を相次いで出すという問題も起きた。

省レベルの全国向け衛星チャンネルは全部で30以上と過当競争状態にあって,放送関係者は今後数年で5つ程度に集約されると見ており,視聴率調査をめぐる不正の背景には,衛星チャンネル間での生き残りをかけた熾烈な戦いがあると見られている。

山田賢一