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仏大統領,FTV 会長指名 無難な人選

サルコジ大統領は7月5日, 大統領声明で,大改革のさなかにある公共放送France Televisions の新しい会長にFrance3の元局長のレミー・フリムラン氏を指名したと発表した。フランスでは2009年の放送法改正で,それまでの独立規制機関 CSA(視聴覚高等評議会)に代わって,大統領が直接公共放送の会長を指名することになり,今回その選択が注目されていたが,政治的論争の起きない比較的無難な人選だとフランスのメディアは伝えている。

アルザス地方出身のレミー・フリムラン氏は56歳,新聞・雑誌のジャーナリストとして長く経験を積んだあと1995年から6年間,地方向けの公共放送France3の局長を務め,現在は大手の新聞・雑誌の配給会社社長である。

新会長の指名については,一時複数のメディアが,商業放送ラジオの社長で37歳のアレクサンドル・ボンパール氏が有力と伝えたが,若さとテレビ経験のなさ,そして何よりもサルコジ大統領への近さが問題となり批判の声があがっていた。これに対してフリムラン氏は穏健な実務家と言われ,大統領の選択は政治論争を避けたものとなった。

改正放送法では,公共放送の会長任命にあたってはCSAと議会の承認も必要となっている。フリムラン氏は1週間後,まずCSA本部で9人の評議会メンバーによる聴聞会に臨んだ。この席でフリムラン氏は今後の公共放送のかじ取りについて自らの方針を述べ,投票が行われた結果,賛成6票,棄権3票で承認された。また7月中旬には,上下両院の文化委員会が相次いで開かれ,上院は賛成22票,白紙2票,下院は賛成20票,反対1 票で,両院ともフリムラン氏の会長就任を承認した。ただし社会党と共産党は「大統領による指名という方法に問題がある。やはりCSAのような独立機関が選ぶべきだ」として両院とも投票を棄権した。

France Televisions 会長の任期は5年で,レミー・フリムラン氏は8月下旬に現在のパトリック・ドゥ・カロリ会長から業務を引き継ぐことになるが,課題は山積みされている。

France Televisionsはその傘下にF2( 総合),F3(地方向け),F4(若者向け),F5(教養・教育),そして海外県向けのRFOと5つのチャンネルがあるが,別々にある組合の統合後,その労働組合との間で今後の組織改革,番組編成改革を見越した新たな労働協約を締結しなければならない。フリムラン氏はF3 の局長を長く務めたこともあって,機構改革にあたっては,各チャンネルの自主性を重んじ,チャンネルごとのアイデンティティーをより鮮明に打ち出したい意向だという。

またサルコジ大統領のイニシアティブで始まった広告放送廃止の課題もある。現在は午後8時から翌朝6時までの広告放送がなくなっているが,改正放送法で予定している2011年末までに全廃できるのか,これも大きな問題だ。この問題では財源補てんの為,政府が公共放送に長期的に補助金を交付するのは,EUの自由競争法に違反しないと,7月20日EC,欧州委員会が裁定した。フリムラン氏はCSAや議会での聴聞で,「広告全廃を目指すが,財源の裏付けのめどがたつまでは,一部広告放送を続けるという猶予期間を設けることもありえる」と述べたという。

新田哲郎