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ドイツの全州首相,受信料制度改革に合意受信機の有無にかかわらず全世帯が負担

ドイツの全州の首相が6月9日,ベルリンで開かれた州首相会議で,公共放送財源の制度改革の方針について合意した。放送に関する権限を各州が持つドイツでは,州首相会議で,各州の方針を一致させることによって,全国的な放送政策を決定する。この合意で,2013年の施行を目標に,法改正を行う見通しとなった。合意の骨子は次のとおりである。

  • ① 放送受信機器の所有を根拠に徴収する受信料に代えて,機器所有の有無にかかわらず,世帯と事業所を単位に,「放送負担金」を徴収する。
  • ② 「 放送負担金」徴収額は全世帯一律とし,金額は現行負担を超えないようにする。
  • ③ 事業所の「放送負担金」徴収額は,従業員数に応じた10段階のスライド制とする。
  • ④ 従来どおり,生活保護世帯等を対象とした免除規定を設ける。
  • ⑤ 受信料徴収センター(GEZ)は存続させる。
  • ⑥ 公共放送が広告とスポンサーシップから財源を得ることをひきつづき認めるが,これを禁止した場合の財政的影響を考慮しつつ,2013年以降に段階的見直しを行う。

ドイツの受信料は,公共放送ARD(ドイツ公共放送連盟),ZDF(第2ドイツテレビ),ドイチュラントラジオと,州メディア監督機関の主要財源である。ARDとZDFは,広告やスポンサーシップを認められているが,いずれも収入の8割以上を受信料が占める。受信料の年間徴収総額は約72億6,000万ユーロ(約8,000億円)で,その約2.2%が,公共放送が共同で設立するGEZの費用である。

現行の受信料制度では,世帯と事業所は,放送受信機器の所有の届け出と,受信料支払いの義務を課せられている。機器の所有には公共放送財源を負担する義務がともなうという論理である。受信料には,ラジオ所有に課される基本料金(月額5.76ユーロ)と,基本料金に加えてテレビに課されるテレビ料金(月額 12.22ユーロ)がある。機器が複数ある場合,世帯では1台分だけだが,事業所では原則として台数分の受信料を課される。2007年から,いわゆる「PC受信料」を導入し,ラジオ・テレビの受信料を払っていない場合は,インターネットに接続可能なPC・携帯電話の所有にも,基本料金を課すようになった。

制度改革の軸は,この支払い義務の根拠を,放送受信機器の所有と切り離すことにある。「放送負担金」という概念を導入し,基本料金・テレビ料金の区別なく,全世帯,全事業所に支払い義務を課す。目的は,制度の簡素化と公平性の維持である。

その背景には,放送受信機器が多様化し,その定義が難しくなったことや,受信機器所有の届け出義務が徹底せず,特に都市部で支払い率が上がらないことがある。また,「PC受信料」の徴収を開始したところ,自宅が仕事場を兼ねる個人事業主による訴訟が各地で相次いだ。争点は,自宅用のラジオ・テレビの受信料に加えて,専ら仕事用で,放送の視聴には用いないPCの受信料を支払う義務があるかどうかで,なかには,この支払い義務そのものに疑義を呈する判決も出て,より簡明で,公平な制度の必要性が明らかになった。

改革の基本方針に基づき,今後,各州の次官レベルで改正法案が作成され,今秋の州首相会議で協議される見込みである。

伊藤 文