メディアフォーカス

米グーグル,中国のネット検閲に「撤退検討」

アメリカのネット検索最大手グーグルは1月12日,中国政府による厳しいネット検閲や,同社の無料メールサービスの「Gメール」が中国内からと見られるハッカー攻撃を受けたことなどを理由に,現在中国企業の「百度」に次ぐ30%以上のシェアを持つ中国市場からの撤退を検討していると表明した。

グーグルは「悪いことには手を染めない」という創業者の哲学で知られているが,2006年に中国市場に参入した際には,民主化や少数民族問題など中国政府の望まない情報を非表示にするという自己検閲を受け入れたため,ヤフーなどとともにアメリカ議会の公聴会で集中砲火を浴びていた。

今回グーグルは,中国向けサイトが閉鎖されるのを覚悟で自己検閲を取りやめる姿勢を見せ,今後中国政府と協議する意向を示した。またハッカー攻撃に関してグーグルは,中国で活動しているアメリカ・中国・ヨーロッパの人権擁護活動家のメールを第三者が定期的にのぞき見していた形跡があると指摘した。

この後,中国版グーグルで,これまで自主規制してきた「天安門事件」や「ダライラマ」,当局と対立する気功集団「法輪功」の関連サイトなどが一時的に見られるようになった。

これに対し中国政府は,ハッカー攻撃への関与を否定するとともに,14日の定例記者会見で外務省報道官が「中国政府は外国のネット企業を歓迎するが,ネットサービスを提供する場合は中国の法律に従わねばならない」と述べ,グーグルの要求には応じない立場を示した。一方アメリカ政府は,クリントン国務長官が21日,「インターネットの自由」について演説し,ネット上の政治的な検閲を批判するとともに,サイバー攻撃について中国に調査を要求した。アメリカからの批判が高まったことに対し中国政府は,中国も検索の国内最大手「百度」がハッカー攻撃を受けていることや,ネット上でポルノ等のコンテンツに対する規制は世界中で行われていることを挙げて反論,中国共産党機関紙の人民日報も,アメリカがツイッターを武器にイランに「ネット戦争」を仕掛けたなどと厳しく批判する論説を次々と掲載した。グーグルをめぐる問題は,貿易摩擦やアメリカの対台湾武器輸出と並んで,米中間の国際問題に発展した。

グーグルの中国市場撤退検討が報じられると,中国国内のネットユーザーの間では,グーグルの撤退を懸念する声と,国家主権を強調してグーグル撤退を当然視する声に二分されたが,一部の若者ユーザーらはグーグルチャイナのオフィス前で献花を行い,ネット上は「非法献花」が流行語となった。

1月末現在,この問題は依然として解決を見ていないが,グーグルは当初の強硬な姿勢をやや軟化させ,中国向けサイトでの自己検閲を再開しているほか,シュミットCEOが「我々は中国に残りたいと思っている」と述べるなど,妥協に向け模索をしている模様である。一方の中国政府も,外務省報道官は「良好な米中関係の維持」を強調している。これについて中国メディアの関係者は,対外発信強化に取り組んでいる中国は,この問題で「言論の自由を弾圧する中国」というイメージが広がることを懸念しており,特にグーグルが世界の情報流通の中で占める役割を考えると,グーグルを自らの情報発信のために利用したいとの思いがあり,何らかの妥協を図る可能性があるとの見方を示している。

山田賢一