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バラエティー番組の改善 BPO放送倫理検証委が問題提起

放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は2009年11月17日,「最近のテレビ・バラエティー番組に関する意見」をまとめ,日本民間放送連盟(民放連)に申し入れた。

バラエティー番組に関しては,視聴者から少なくない批判意見がBPOに寄せられていたが,バラエティー番組は報道やドラマと異なり,「何でもあり」の世界で,「古い秩序や権威を笑い飛ばし,いま世の中を窮屈にしている常識や社会通念を揺さぶって,人々に新しい現実を見せ,新しい感受性に目覚めさせてきた」(意見書9P)歴史がある。表現の多少の行き過ぎは許されるジャンルだとの意識が番組制作者にあり,放送倫理で縛ることは番組を萎縮させるおそれがあるとして,現場からは同委員会が取上げることに反発の声もでていた。

このため,同委員会は審議に9か月を費やし,慎重に議論を進めてきたが,「バラエティー番組が頻繁に公権力の干渉を受けるような隙を作っている現実に,制作者たちは放送の置かれているいびつな状態を真剣・深刻に考えていないのではないか」,「そのような隙を作り,つけ込まれること自体,表現の自由を危うくし,ひいては民主主義の進展を阻害するのだということに,制作者たち,また放送界全体はどれほど自覚的だろうか」(意見書P5)との判断から,あえて「何でもあり」のジャンルであるバラエティー番組の質の向上のために,制作者を励ます立場から「意見」を述べることに踏み切った。

苦情が寄せられているのが民放の番組なので,「意見」の宛先は民放連だが,同委員会はNHKも含めた放送界全体の課題として議論してほしい,と呼びかけている。

こうした経緯でまとめられた「意見」だけに,従来の「検証」および「結論」という形式をとらず,挿絵に漫画を入れ,読みやすい文体を採用しているが,内容は一言で括れば放送倫理の視点からのバラエティー番組論となっている。

同委員会は,視聴者の意見を分析し,最近のバラエティー番組が批判される理由を,①下ネタ,②イジメや差別,③内輪話や仲間内のバカ騒ぎ,④制作の手の内がバレバレのもの,⑤生きることの基本を粗末に扱うこと,の5項に分類している。

「『下ネタ』は,たしかに,時と場合によっては面白い。けれども視聴者は,それは公衆の面前でやってみせることでもなければ,面白がるものでもないことを知っている」,「『イジメや差別』もそうである。いまどき,顔が黒いといって囃し立てたり,イジメまがい,セクハラまがいの台詞やアクションで笑いを取ろうなんて大人げないし,みっともないし,そもそも芸がない,と視聴者は見抜いている」,「イジメや差別は昔もあったし,いまもある。それがいいというわけではないが,シチュエーションも手口も,現実の方がもっと生々しく,ずっと先にいっている。そのことの深刻さを知っている視聴者には,画面のなかの出演者がままごとをやっているようにしか見えないし,あるいは深刻な現実に単に追随しているようにすら感じてしまう」(意見書P22)と指摘する。

「生きることの基本を粗末に扱う」との視聴者意見を一般化すると次のようになると同委員会は分析する。

  • 死を安直に扱うこと。
  • 食べ物を粗末にすること。
  • 社会生活の最低限のルールを破って平気なこと。
  • 自然を壊したり,動物を虐待すること。
  • 弱い人,気の毒な人たちをいたぶること。
  • 歴史の基本的知識や認識をないがしろにすること。等々。

そして,昔のバラエティー番組にも同じような場面があったが,いまそれと同じことをやると嫌われる理由として,一つは番組内容に社会批判が薄くなっていること,いま一つは社会構造と視聴者の意識の変化を挙げている。

かつて,生きている人間を死んだことにして笑い飛ばすネタが笑いを取ったのは,対象人物が「権威や権力の権化のような人物だったり,やたら学歴や肩書きをひけらかす嫌味なヤツだったり,家父長制度を嵩に着て威張り散らすオヤジだったりしたからではなかったか,彼らは脂ぎった俗世間のシンボルだった」からであり,「パイ投げや小麦粉かけやビールかけが面白かったのも,材料の意外性や,ぶつけられ,真っ白になり,びしょ濡れになった人物の人格が豹変することが面白かっただけでなく,その一瞬の光景に,その人物がしがみついていた社会通念や秩序の崩壊が垣間見え,それが視聴者に快哉を叫ばせたからでもあった」(意見書P28)と分析している。

また,社会構造と視聴者の変化については,「かつての視聴者を取り巻いていた旧習・旧弊はずいぶん少なくなったかわりに,世の中に根を張った生活信条があるわけでもない。あるのは,あちこちから,ときには地球の裏側や近隣の国々からも押し寄せてくる巨大な力に揺さぶられているという実感。王様の姿は見えないのに,その乱暴な影響力だけはある。それに正面から立ち向かう方法を見つけ出せないまま,ぎすぎす,いらいらする世間の空気」(意見書P34)が,かつての「愛のムチ」を「体罰」に,「トリックスター」を「弱者」に,「おバカキャラ」を「バカ丸出し」に転化させてきたと分析し,制作者たちの認識が変化に遅れていると指摘している。

そのうえで同委員会は,「バラエティーは報道やドラマとちがい,不定形こそが特徴の番組スタイルである。その自由さの内には,放送というメディアに課せられた枠それ自体を揺さぶり,ときには突き破ることによって,人々の心を解放し,四方八方に広がる共振と共鳴を生み,より自由な公共空間と社会を作り出していくという働きが潜んでいる」(意見書P39)として,バラエティー番組の活性化に期待を示し,公権力の干渉を受けないために,バラエティー番組についての実効的指針の検討,視聴者の感受性やものの見方,公共空間の形成,社会動向の変化などについて調査・研究を進めること,制作者と視聴者が語り合うシンポジウムの開催,バラエティー番組を顕彰する制度の充実などを放送界全体の課題として取り組むように要請した。

意見書を受け取った民放連の広瀬道貞会長は11月17日の記者会見で,バラエティー番組の本質や意義を評価したうえで問題点を指摘した内容で,バラエティー番組の制作者に対する熱いメッセージを感じた,制作者を励ましたいとの趣旨と正面から向き合い,制作者レベルまで範囲を広げて議論したい,と述べた。またNHKも18日,意見を番組制作の参考にする意向を明らかにした。

奥田良胤