メディアフォーカス

台湾,ネットのCGニュースに各界から反発

台湾の大手紙「りんご日報」が,ネット上で11月16日から試験的にサービスを始めたCG利用による映像ニュースが,各界から強い反発を受け,台北市政府が罰金処分を科すなど,大きな波紋を呼んでいる。

「動新聞」と名づけたこのサービスは,実際に起きた事件などのニュースで,映像が取れていない情報についてCGによる動画を作成して再現するもので,りんご日報はニュースを分かりやすく伝える一つの方法として導入した。自社のネットサイトに載せているこの「動新聞」は,登録した有料会員のみに視聴させる形をとっているが,りんご日報の購読者は紙面に掲載されたQRコードを携帯電話で読み取ることでアクセスできるため,事実上子どもを含め誰でも「動新聞」を見られる。

試験サービスから1週間ほどのうちに,その内容を見たメディアNGOや人権団体から,以下のような批判が噴出した。

  • ① ニュースの対象が犯罪や事故などの社会ニュースに偏り,その細部を描くことで被害者・加害者双方の人権を侵害する
  • ② 犯罪の詳細を描くことで,未成年者等に対し犯罪を教唆するおそれがあり,特にセクハラや性暴力の事件は問題が大きい
  • ③ 詳細な自殺報道が自殺を増やすおそれがある
  • ④ CG化した内容には想像による部分も含まれ,実際は事実と異なる点もあるのに,「ニュース」として報道するのは問題がある

YouTubeにアップされた「動新聞」を実際に視聴してみると,少年達による殺人事件を扱ったニュースで,加害者が被害者に対して刃物を振り下ろす場面や,被害者の遺体を投げ捨てる場面がCG映像になっていたほか,警察での取調べに対し加害者の少年が「殺してすっきりした」と供述する場面まで音声付きで再現されていた。

各界から苦情を受けた独立規制機関のNCC=国家通信放送委員会が取締りの法的根拠に苦慮する中,台北市政府は11月25日,「動新聞」のニュースのうち,「飲酒後に3P,女子大生が性暴力と訴え」など3項目について,未成年の視聴禁止等のレイティングを怠ったとして,児童及少年福利法違反で50万元(約135万円)の罰金を科し,翌日にも同様の記事が残っていたとしてさらに50万元の罰金を科した。その際台北市政府は,「動新聞」がりんご日報掲載の QRコードからアクセスできる点を考慮し,りんご日報を市内の学校や図書館で閲覧できないよう購読停止などの措置も合わせて取った。

これに対しりんご日報は,当初「報道の自由の侵害」などとして市政府を訴える意向を示していたが,26日に婦女新知基金会など15の団体が合同でりんご日報に抗議したほか,世論の大勢も台北市政府の措置を支持する中で態度を変え,28日から「動新聞」に“制限”と“無制限”のレイティングシステムを導入し,“制限”のニュースについては未成年者に視聴しないよう警告を出す方針を表明,その後台北市長に対する訴訟も行わないことを明らかにした。

この問題を受け立法院(国会)では12月2日,犯罪や自殺を詳細に描くことを規制する条項を新設する,ラジオテレビ法などの改正案の審議に入った。また,りんご日報からテレビチャンネル新設の申請を受けているNCCも同日の会議で,今後テレビのニュース報道にも「動新聞」のようなCGを使うかどうかなど詳細な説明をりんご日報に求める方針を明らかにした。

山田賢一