メディアフォーカス

中国,世界メディアサミットを主催

~海外メディアとの交流拡大を強調~

世界の主要メディアの幹部が一堂に会した「世界メディアサミット」が,10月8日から3日間,北京で開かれた。これは中国国営の新華社通信がニューズ・コープ,BBC,AP,ロイター,共同,グーグルなどとの共催で初めて開いたもので,サミットにはニューズ・コープのルパート・マードック会長をはじめ 170社あまりの幹部が出席した。

開幕式では中国の胡錦濤国家主席がスピーチを行い,世界の各メディアがそれぞれの文化の違いを尊重しながら相互に協力・信頼関係を深めることが重要であると強調するとともに,関係する法律に従いつつ海外メディアの記者の合法的な権利を保障すると述べた。会議では最終日の10日,「世界各地のメディアが正確で客観的,公正,公平なニュースを伝え,各国の政府や公共機関に透明度と信頼度の向上を促し,世界のさまざまな地域の人々の相互理解を促進することを希望する」などとした共同宣言を採択して閉幕した。

今回,中国が世界中の主要メディアを集めて大規模なサミットを開催したことには,さまざまな背景が指摘されている。まず,海外メディアの中国報道をより「友好的」なものにしたいとの思いである。2008年3月のチベット暴動では,中国政府が海外メディアの現地取材を厳しく制限したこともあって,海外メディアは主にチベット亡命政府側の情報をもとに中国に対して批判的な報道を行った。また今年7月のウイグル暴動に関しても,海外のウイグル独立派が計画的に扇動した暴力行為という中国政府の主張を海外メディアはあまり受け入れず,むしろウイグル族の置かれた状況への同情が高まる面もあった。海外の主要メディアを幅広く招待したことは,その論調をより中国に友好的なものにしようとの狙いがうかがえる。

また,このサミットでメディアの国際交流が強調されたことの背景には,中国政府が自国の主要メディアを国際的に通用するメディアに育成しようとの政策がある。中国がWTO(世界貿易機関)に加盟したあと,世界経済の一体化が急速に進むなかで,中国政府は自国メディアも産業として国際競争力を持つ必要性があると強く意識し,特に対外発信能力を強化することで,国際世論に影響力を持つ存在に育てようとしている。このため新華社は,通信社としての事業に加え,現在テレビ事業の強化にあたっており,今回新華社とともに,ニューズ・コープ,AP,BBC,タイム・ワーナーというテレビ事業にかかわる4社が共催者に名前を連ねているのも,そうした取り組みの一環とみられる。

一方,海外メディアの側からすると,天安門事件20年という「政治的に敏感な時期」のなかで国内のメディア統制を強化してきた中国政府の政策が,今後は開放に向かうかどうかが大きな問題なのだが,今回のサミットでは中国国内における報道の自由・言論の自由を正面から提起した議論はほとんどなく,ニューズ・コープのマードック会長が著作権の問題について,「利用者はコンテンツに対して料金を支払うべきだ」と繰り返し主張したにとどまった。

海外の主要メディアが中国のメディア市場の潜在的魅力に抗しきれず,報道の自由の問題を脇に置いて北京詣でに励む形となったことについて,メディア関係者からは批判の声が上がっている。

山田賢一