メディアフォーカス

台湾公共テレビへの“政治介入”に市民団体などの抗議高まる

台湾の国会に当たる立法院の教育および文化委員会は2008年12月9日, 公共テレビの2009年度予算について,今後政府の担当部署に対して番組ごとに企画や制作費の明細を提示し,事前に許可を得るよう求める付帯決議を採択した。これに対して公共テレビを運営する財団法人公共電視文化事業基金会は10日夜,臨時の理事・監事会議を開催,公共テレビの経営は独立自主で干渉を受けてはならず,決議は受け入れられないとする声明を発表した。また,国際ジャーナリスト団体のIFJ(International Federation of Journalists)や国境なき記者団も相次いで立法院の“政治介入”を非難する声明を出した。

台湾では2008年5月に政権が民進党から国民党に交代したあと,メディアへの“政治介入”を疑わせる事件が相次いでおり,10月には海外向けラジオ局である中央ラジオ(中央廣播電台)の会長ら幹部7人が,馬英九政権から「中国をあまり批判するな」などと圧力を受けたとして,抗議のため集団で辞任した。また国民党が,公共テレビの役員人事を審査する委員に自党の立法委員(国会議員)4人を送り込んだことについても,「審査委員は社会の公正人士でなければならない」とする公共テレビ法に違反すると批判されていた。

今回の付帯決議が採択されたことについて国民党は,「公共テレビは税金で運営しているので,予算の使い方を監督するのは当然」としている。しかしメディアを専攻する学者やジャーナリストでつくる「媒体改造学社」などのメディア監視NGOは,「これまで商業局と違って高品質の番組を作ってきた独立自主の公共テレビを否定し,政府のテレビ局におとしめようとするもの」と強く反発している。そして立法院が公共テレビの2008年度予算9億元(約25億円)の半分を1年以上にわたって凍結している問題についても,「公共テレビを兵糧攻めにして言いなりにさせようとしている」として,予算凍結の即時解除と公共テレビの独立自主を求める運動に乗り出した。署名は3週間足らずで88団体,15万近くに達し,2009年1月1日には3,000人のデモ参加者が立法院を包囲して気勢を上げた。また公共テレビの経営陣も,こうしたメディア監視NGOの要求に沿って運営コストや給料体系などの情報公開に応じる方針を表明,市民に直接支持を訴える姿勢を明確にした。

さらに台湾の各メディアも,野党民進党に近い最大手の自由時報はもとより,中立系のりんご日報,さらには国民党系と見られてきた中国時報までが「公共テレビは民進党政権の時代にも政府から嫌われており,中立のメディアと言える」などと公共テレビへの“政治介入”を批判する記事を掲載,国民党は孤立無援の状態となっている。

台湾の馬英九総統はこの問題について年末にテレビ局のインタビューの中で,「公共テレビの運営に介入するいかなる指示も出していない」と強調したが,立法院の具体的な動きに対してはコメントしていない。一方,メディアを管轄する政府部門である新聞局では,外交部出身でメディア事情に疎いうえ,たびたびメディアに電話をするなどの“政治介入”が指摘されてきた史亜平局長が異動となったことから,新任の新聞局長がこの問題でどのような対応を打ち出すかが注目されている。

山田賢一