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テレ朝のマクドナルド元従業員制服証言放送倫理検証委が厳しい指摘

テレビ朝日『報道ステーション』は,2007年11月27日に放送した「マクドナルド製造日偽装問題」のニュースのなかで,内部告発をした元店長代理に,マクドナルドの制服を着せ,店長代理のバッジをつけさせ,顔を隠して放送した。放送後,視聴者から元店員が制服を着ているのはおかしいなどの抗議が寄せられたのに対し,テレビ朝日は,12月7日,同番組で「これは本当に間違ったやり方です。申し訳ありませんでした」との謝罪放送を行い,元店長代理が番組関係者であることを明らかにした。

この経緯について,放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は,

  • (1) なぜ制服を着せたのか。
  • (2) 証言者が番組関係者ならどうして「顔出し」をした実名証言としなかったのか。
  • (3) TBS『みのもんたの朝ズバッ! 』で同検証委員会が出した「告発証言報道のあり方」,「間違った場合の訂正・お詫びの仕方」を,番組制作の教訓としていないのではないか。

などの疑問を持ち,これらの疑問点を含む具体的な質問をテレビ朝日に行った。

これに対してテレビ朝日は概要以下のような回答をした。

  • 証言内容の確認は,元店長代理だけでなく,複数の関係者にあたった。元店長代理の証言が,実体験者でしか知りえないものであり,番組関係者であってもこの証言を放送することは公共性・公益性が高いと判断した。
  • 「顔なし」出演としたのは,証言者に不利益が及ぶ可能性があった。証言者が直接番組を制作しているスタッフではなく番組周辺にいる人物であったため,本人を特定される恐れのある情報を極力控えた。
  • 撮影の際に在職時の制服を着用させ,また「店長代理」のバッジをつけさせた理由は,担当スタッフが視聴者にわかりやすく表現したいと思ったからである。判断したのは,担当ディレクター(3人)のチーフである。しかし,本人が保管していた店員時代の制服を着せ,さらに店長代理時代のバッジをつけさせてインタビューを行ったことは,視聴者に混乱と誤解を与える不適切な表現方法だった。
  • 謝罪放送は,わかりやすく説明したつもりだが,趣旨がわかりにくかったのであれば遺憾であり,ご批判を真摯に受け止める。謝罪放送までに10日間を要したのは,何よりも事実関係を正確に確認・検証する必要があり,また証言者の身元が特定される可能性がある情報をどこまで表現すべきか,慎重にならざるをえず,議論を重ねた結果である。
  • BPO放送倫理検証委員会のTBS『みのもんたの朝ズバッ! 』の不二家関連報道に関する見解については真摯に受け止め,現場で周知に努めている。今回の事態を受け,社としては委員会見解を踏まえ,番組でなるべく早い機会に,自ら正確に視聴者に説明し謝罪することが必要と判断した。

テレビ朝日の回答を受け,同検証委員会は2008年2月4日,概要以下のような意見を公表した。

  • テレビ朝日の回答は,質問に正面から向き合い,番組制作関係者の実感や肉声から発せられたものとは言い難い。制作現場のリアリティを感じさせない回答は,今回の関係者の教訓にならないばかりか放送界全体の質的向上にも寄与することがない。
  • 問題は,なぜ現在は店員でない発言者に,ことさら制服を着せ,店長代理のバッジを着用させたのか,またなぜおわび放送までこれだけの時間を要したのか,の2点である。回答では,制服とバッジについて「視聴者にわかりやすく表現したかった」としているが,報道番組でこのような演出を行えば「視聴者に混乱と誤解を与える不適切な表現方法」となることは,放送前からわかっていなければならないことであった。「わかりやすく」というよりも,映像として「強い」「ショッキング」「効果的」でかつ「作りやすい」と判断したのではないか,との意見もあった。安易な短絡的映像至上主義による演出は,取材報道にあたっての慎重さに欠ける。
  • 謝罪放送までに10日間を要しているが,問題は演出に誤解を招く不適切さがあったことで,発言内容の真偽ではなかったことから考えると,なにゆえこれほどの時間を必要としたのかは理解に苦しむ。謝罪放送にあたって「あえて」という言葉を用いているが,「あえて」とは「しなくてもよいことを強いてするさま」を意味する言葉であり,10日も経過してからの謝罪放送で使用するのは極めて不適切である。
  • 「テレビ朝日番組基準」には「放送に当たってはテレビジャーナリズムの特性を活かし,事実を正確,迅速,公正に取扱う」とあるが,制作関係者のあいだでこうした「基準」がタテマエ化し,目先の「おもしろさ」「映像の強さ」「作りやすさ」に陥る傾向がありはしないか。関係者一人ひとりが,自ら定めた「基準」に立ち返り,その意味するところを血肉化していくことを求めたい。

奥田良胤