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福岡県の民放に地デジ再送信の同意求める区域外再送信問題で総務相が裁定

大分県のケーブルテレビ事業者4社が福岡県の民放4局に対して,福岡県を放送エリアとする地上デジタル放送を大分県で放送すること(区域外再送信)に同意するよう求めていた問題で,菅総務相は2007年8月17日,民放4局は再送信に同意すべきとする裁定を行った。区域外再送信に対して同意を求めた大臣裁定は過去2回あるが,地上デジタル放送をめぐっては初めての判断となった。

この問題は,大分ケーブルテレコムなど大分県のケーブルテレビ事業者4社が福岡県の民放4局に対して,これまで行われているアナログ放送と同様,デジタル放送についても区域外再送信への同意を求めたのに対して,民放側が▽デジタル放送はアナログからの移行ではなく新たな免許である,▽著作権の処理が不十分,▽大分県の民放の視聴率が低下し,経営に悪影響を与える,などと主張して拒否していたもので,ケーブルテレビ側が3月,有線テレビジョン放送法に基づいて,総務相に裁定の申請を行った。

裁定申請をしたケーブルテレビ4社は,民放側の主張に対し,▽アナログ放送で区域外再送信を認めてきたにもかかわらず,デジタル放送が新しい免許であることを理由に同意しないのはおかしい,▽再送信の同意にあたっては著作権法上の許諾は不要,▽経営への悪影響は再送信を拒否する正当な理由には当たらない,などと反論していた。

裁定をめぐって諮問を受けた総務省情報通信審議会の有線放送部会はケーブルテレビ側の主張をほぼ認め,▽アナログ放送とデジタル放送は基本的には同一内容の放送が行われており,両者で異なる取り扱いをする合理的理由はない,▽有線テレビジョン放送法に基づく同意と著作権法上の許諾は別の制度,▽経営への影響は民事的に解決すべき問題で,再送信に同意しない正当な理由にはならない,と判断した。そして,民放4局のデジタル放送の再送信について,すべて同意すべきとする答申を8月9日に行い,総務相の裁定もこの答申に沿ったものとなった。

これについて,民間放送連盟は,大臣裁定制度は地上放送の根幹である地域免許制度と相容れないものであり,ケーブルテレビ産業の発展ぶりや裁定制度と著作権法との不整合という現状を直視せず判断が行われたことは極めて遺憾,とする内容の会長コメントを発表した。一方で,視聴者にとっては,仮に再送信が認められなければ,アナログ放送では見ることができた番組がデジタル放送で視聴できないことになる。これに関連して,情報通信審議会の答申では,ケーブルテレビの実態や通信・放送の融合の進展も踏まえ,再送信をめぐる制度のあり方について著作権処理の問題も含めて幅広く検証すべきだと指摘した。

今回の問題をめぐっては,県域免許制度の根拠となる放送法・電波法と,基本的には区域外再送信に同意すべきと裁定することになっている有線テレビジョン放送法の間に矛盾があるという指摘もある。総務省の「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」では,2007年6月の中間取りまとめでこうした縦割りの法体系を見直す提言を行っているほか,区域外再送信制度や大臣裁定のあり方の見直しについても,別に研究会を設けて議論を行うことにしている。

村上聖一