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『朝ズバッ!』の不二家不祥事報道不十分な取材,制作体制の欠陥などに警告

~「放送倫理検証委員会」~

NHKと民放で組織する第三者機関「放送倫理・番組向上機構」(BPO)の「放送倫理検証委員会」(川端和治委員長)は2007年8月6日,『みのもんたの朝ズバッ! 』の不二家不祥事報道に関する審理結果を発表した。このなかで同委員会は,(1)取材が不十分であった,(2)制作体制に深刻な欠陥があり,司会者の放送倫理違反発言につながった,(3)謝罪放送の内容が適切ではなかった,(4)内部告発の真偽を未確定にしたままTBSと不二家が曖昧な「決着」をしたのは問題がある,と指摘した。

「放送倫理検証委員会」は,関西テレビが制作した『発掘! あるある大事典II』における実験データ等の「ねつ造」が社会問題になったのを契機に放送界の自律機関として2007年5月に設立された委員会で,『みのもんたの朝ズバッ!』が初めての審理事案であった。

『みのもんたの朝ズバッ! 』は,2007年1月22日に,不二家は賞味期限切れのチョコレートを溶かして新品として再出荷していたなどと元従業員の内部告発をベースに報道した。この報道に対し,不二家が賞味期限の切れたチョコレートは廃棄処分にしており,再処理して商品化することはない,などと抗議,両社は対立した。

TBSは2007年4月18日に,元従業員が勤務していたのは10年以上前のことであり,証言内容は伝聞に基づくもので事実かどうかの確認をしなかった,などと同番組内で謝罪した。この謝罪放送を不二家が受け入れ,両社は和解した。

しかし,不二家の信頼回復対策会議の外部有識者委員が,放送に「ねつ造」があったのではないかと,放送倫理検証委員会に審理を求めていた。

同委員会は審理の結果,元従業員の証言は存在したとし,内部告発そのものは「ねつ造」ではなかったと判断した。さらに放送時点においては証言内容を信じるに足る相応の根拠があった。また,謝罪放送によって視聴者に与えた誤解の多くは修正されたとして,TBSが新たに訂正放送をしたり,検証番組を制作したりする必要はないとの「見解」を示した。

しかし,同委員会は次の3点について厳しくTBSの制作体制などを批判した。

第1は,『朝ズバッ! 』の取材の不十分さである。内部告発の場合,証言内容とその裏付け取材が大きなポイントとなるが,『朝ズバッ! 』では,告発者に対する撮影取材は実質14分半しか行われていなかった。「しかも,その質問はところところで要領を得ず,何を質問しているのか意味不明」のところもあると委員会は指摘した。また,証言を裏付けるためのもう1人の証言者の電話取材メモが保存されていなかった。この証言者が内部告発者の関係者であることを考えれば,「信用性の吟味にはいっそうの慎重さが必要であった」とも指摘した。

第2は,司会のみのもんた氏が後日の不二家不祥事報道のなかで「廃業してもらいたい」「異物じゃなく汚物」などと不二家を断罪する発言をしたことである。同委員会は「放送倫理上,見逃すことができない落ち度」だと指摘した。みのもんた氏は同委員会の照会に対して,「ここまできたら廃業するくらいの覚悟で,信念をもって経営にあたってほしいとの激励の思いも込めたつもり」と説明したが,委員会は「その口調や表情からは『激励の思い』を汲み取れる内容とはなっていなかった」と判断した。

みのもんた氏の断罪的決めつけ発言について同委員会は,みのもんた氏だけの責任ではないとしている。番組前の司会者との打ち合わせの時間がわずか5 分程度しかなく,どこまでが確認された事実で,どこからは未確認なのかが司会者に正確に伝わっていなかったという。また,不二家からの抗議があったことも制作関係者は知っていたはずだが,みのもんた氏の後日の発言にそのことへの配慮がまったく感じられないのは,両者間の情報共有の仕組みに問題があったからだとして,「番組制作体制そのものが内包する深刻な欠陥」だと指摘した。

第3は,謝罪放送までに3か月もかかったこと,訂正・お詫びの「範囲」の曖昧さ,である。同委員会は,不二家からTBSが受けた指摘・抗議は「短時日のうちに,確認しようと思えばできた内容」だとする。そして,「デイリーで放送している番組が訂正・お詫びの放送をするまでに3 ヵ月も要する,というのは時日がかかりすぎである」と指摘した。

謝罪放送でも,みのもんた氏の言葉には訂正やおわびに類する言葉は一切なく,「スタジオのお菓子は全部不二家にしますから」など「擦り寄り」「恭順」の姿勢で断罪的発言を曖昧にしてしまった。「不二家平塚工場で賞味期限切れチョコレートが再利用されていた」という内部告発に関しては,具体的には訂正もお詫びも行われず,局アナウンサーが「1月の一連の不二家報道において,行き過ぎた表現やコメントがあった」と謝罪しても,視聴者は何が間違っていたのかわからないと同委員会は指摘し,「番組としての『朝ズバッ! 』の信頼性を,みずから損ねる結果になっている」と批判した。

チョコレートの再利用に関する具体的な訂正はなかったが,不二家は「弊社の要求に応える謝罪である,との経営判断に基づき,これを受け入れることとしました」と表明した。これにより両社がともに,これ以上積極的な取材調査や情報開示を行わないことになったと,同委員会は判断した。

この結果,内部告発の根幹部分である返品チョコレートの再利用の真偽はいまだに明らかになっていない。同委員会は,「ともに社会的責任を負う両社のこの曖昧な『決着』の仕方には問題がある」と指摘し,「今後のTBSの取材調査と不二家の情報開示によって明らかにされるべきもの」として,両社に課題を与えている。

同委員会は,「番組は,もっとちゃんと作るべきだ」という声が審理の席上あったことをあえて「見解」に記載し,「これはむろん,委員会の総意である」として,安易な番組作りに警告を発した。

ところで,今回の審理の過程で同委員会は,内部告発者を取材した「素材テープ」を視聴している。これについて,取材・編集の自由の観点から問題があるのではないかとの趣旨の質問が記者会見であった。同委員会は,第三者の素材テープ視聴が無条件に認められないことは認識しており,この事件では内部告発が本当にあったかどうかを確認するためにやむをえなかったとしている。素材テープの扱いは取材・編集の自由の確保との関連で今後に課題を残すこととなった。

奥田良胤