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SES Astra,ドイツで衛星デジタルプラットフォームentavioを開始

ルクセンブルクの衛星事業者SES Astraは9月1日,ドイツで新しい衛星デジタルプラットフォーム「entavio」の提供を開始した。

entavioは,コンテンツ制作やパッケージングには関わらない技術面のプラットフォームで,デジタル送出,スクランブル化,スマートカード発行管理,対応セットトップボックス(STB)の仕様指定など,有料放送に必要な限定受信システム(CAS)に関わるサービスを一手に引き受け,すべての放送事業者に対して提供する。またマルチアングルや,携帯電話を利用した双方向サービスの提供も可能になる。

視聴者は,月額1.99ユーロ(約300円)の基本料金を払いentavioにアクセスする。これまではコンテンツ・プラットフォームごとにCASが異なっていたため,それぞれにSTBや受信モジュールが必要だったが,entavioでは1台ですむ。現在ノンスクランブルで無料放送されている約500 のテレビ・ラジオチャンネルは,従来どおり無料で視聴できる。

Astraの狙い: 衛星の付加価値サービス拡大

Astraは,100%子会社のAstra Platform Services(APS)を通じてentavio の業務を行う。APS は,もともと有料放送Premiereのデジタル送出センターだったが,2004年,事業のスリム化を図った同社からAstraが買収した。

買収の狙いは,ドイツで衛星放送のCASを普及させ,より多くの有料放送や双方向サービスの提供で付加価値をつけ,他の伝送路に対抗することであった。現在ドイツの衛星デジタル視聴世帯は約900万あるが,その大半はCAS非対応のSTBで無料放送を視聴しており,有料放送の加入世帯は約200万にとどまる。APSの買収で,Astraはすべての事業者のコンテンツに同一のCASを適用するオープン・プラットフォームentavioの構築が可能となった。Astraはこれで衛星有料放送への参入障壁を下げ,今後シェアの拡大が見こまれるデジタルケーブルテレビやIPTVの先手を打とうとしている。

計画段階ではentavioは,デジタルケーブルテレビにおけるベーシックチャンネル・サービスと同様に,無料チャンネルにもCASを適用するものだった。しかしドイツの2大商業放送ProSiebenSat.1とRTL Groupのカルテル協定を疑った連邦カルテル庁の介入により,この計画は撤回されている。

Premiere を乗せての船出

entavioは,Premiereの2つのサービスを乗せて始まった。1つは映画・スポーツを中心とする既存のPremiere自社コンテンツで,もう1つは今回新しく提供される「Premiere Star」である。これは,他社が所有する有料チャンネルを束ねたコンテンツ・プラットフォームで,ProSiebenSat.1やRTLの専門チャンネル,Turner Classic Movies ,AXN,Toon Disneyなど,これまで衛星配信されていなかった13のチャンネルが提供される。

さしあたりPremiereのサービスのみを乗せた船出となったが,entavioはすべてのコンテンツ事業者に開かれた中立的な技術プラットフォームであるとAstraは強調している。欧州の他国の衛星デジタル放送とは異なったentavioのビジネスモデルが成功するかどうか,今後の展開が注目される。

杉内有介