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オーストリア,公共放送の“プロダクト・プレイスメント”は認められるか

オーストリアの公共放送ORFが5月22日,同国の民間放送連盟(以下,民放連)から提訴された。ORFが,番組で商品を意図的にとりあげ,広告と明示せずに,放送を使って宣伝したというのである。問題となった番組は,『Mitten im Achten 』(ミッテン・イン・アハテン,ウィーン第8区にての意)というシチュエーション・コメディである。ORFが複数の企業から報酬を得て,菓子・乳製品・ビール・飲料等の商品を小道具として場面に登場させたとして,民放連は,ORFの監督機関である連邦通信評議会に訴えた。

ORFは,受信料と広告収入を主な財源として,ORF1とORF2の2つのテレビチャンネルで全国放送を実施している。総収入のうち,受信料が約 51%,広告収入が約34%,番組販売収入が約15%である。ORFは,その目的や業務範囲を定めた「ORF法」によって,テレビコマーシャルの放送を,広告であると画面に表示すること等を条件に,認められている。ORFは,2007年1月に就任したヴラーベッツ会長のもと,「新生ORF」と銘打った,大幅な番組改定を4月に行った。なかでも,この『ミッテン・イン・アハテン』(ORF1,月~金,19:20~19:42)は,同局の独自制作による新番組で,若者をターゲットに,人気の芸人らを起用した,いわば“改革の目玉”であった。

映像作品の中で,スポンサーの製品などを露出させる広告手法は,プロダクト・プレイスメントと呼ばれ,映画やテレビで広く用いられている。欧州連合(EU)加盟国の放送法制の共通基盤「国境を越えるテレビ指令」(1989年採択,1997年修正)は,放送番組と広告を明確に分けることを大原則とし,放送事業者に対し,商品などを,注目を集める意図でとりあげ,広告であることを視聴者に認識させずに,放送で宣伝すること(“surreptitious advertising”)を禁止している。これに則り,「ORF法」は, 番組に商品をまぎれこませて広告すること(“Schleichwerbung”)を禁じているが,これとは別個に,「プロダクト・プレイスメントを,少なからぬ対価を得て行うことは認めない」とも規定している。ORFの「対価を得たプロダクト・プレイスメント」について,2003年に民放連が起こした訴訟では,ORFの得た対価が1,000ユーロに満たず,番組内で商品や商標を画面に出したことによる広告効果が些少であったと判断され,「ORF法」違反ではない,という判決が出ている。

EUの「国境を越えるテレビ指令」は,全面的改正をへて,「国境を越える視聴覚メディアサービス指令」として,2007年末に発効予定である。改正後の「指令」では,広告放送に関する規制が緩和され,プロダクト・プレイスメントが一定の条件下で認められることとなった。EUは,プロダクト・プレイスメントを収益源に,ヨーロッパの映像制作・放送産業が高い競争力をつけることを期待してお り,ORFの現会長もこの規制緩和に肯定的である。EU加盟国では,2009年までに,新しい「指令」に沿った国内法を整備することになる。オーストリアでは,「ORF法」の改正に向け,プロダクト・プレイスメントの定義やその可否を含め,公共放送の財源のあり方そのものが議論されることになるだろう。

伊藤 文