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「匿名発表」の問題点を指摘 新聞協会が冊子「実名と報道」刊行

NHKと民放キー局も加盟している日本新聞協会は,個人情報保護法の全面施行や犯罪被害者等基本計画の策定に伴い行政機関や警察等による「匿名発表」が増えているなかで,2006年12月に「匿名発表」に関する実態と基本的考えをまとめた冊子「実名と報道」を刊行した。

新聞協会の2005年5月の調査によれば,警察による被害者の「匿名発表」は28都道府県,被疑者の「匿名発表」は20都道府県,事件・事故そのものの未発表は27都道府県にのぼっている。

発表を匿名で行っただけでなく,事実を加工して発表したケースもあった。

熊本県では,2004年に息子が父親を監禁し暴力をふるった事件で,警察は被害者を匿名で発表し,息子を父親の知人だと説明,親子とは発表しなかった。事柄の本質にかかわる重大な事実の加工だと新聞協会は指摘している。

山梨県で2005 年に恐喝未遂事件の容疑者が逮捕されたときに,警察は被害女性を匿名にしたうえ,実際は30 歳代であったにもかかわらず46歳であると虚偽の発表をした。プライバシーの保護が理由であった。

「匿名発表」は警察だけでなく,他官庁でも行われ,厚生労働省が医師国家試験の合格者氏名を公表しなかったのをはじめ,集団感染や食中毒が発生した場合に施設名や地域を県が明らかにしないケースが全国で相次いだ。海外の事故・災害で外務省が日本人犠牲者の名前を公表しなかったこともあった。

個人情報保護に関する過剰反応によって, 学校の名簿から先生の住所,電話番号が削除されたり,地域の自治会が災害に備えて1人暮らしの高齢者の名簿をつくろうとしても個人情報保護の壁に阻まれてできなかったりした例もあった。

新聞協会は,「匿名発表」は容易に進化,あるいは深化し,それを見過ごしているうちに拡大し,やがて意図的,組織的な隠ぺい,ねつ造に発展するおそれがあると警告している。「実名発表」は「事実の核心」であり,実名があれば「発表する側はいい加減な発表や意図的な情報操作はできなくなる」として,読者や視聴者の「知る権利」に応えるために「実名発表」が必要だと主張している。

新聞協会は「実名発表」が直ちに実名報道に結びつくわけではなく,実名が発表されても必要な場合は新聞社や放送局の判断で匿名にしているケースも少なくないとしている。書かれる側の痛みと公共性や公益性とを比較しながら匿名か実名かの判断をその都度しており,「実名報道の責任は,そう判断した各報道機関にある」と責任の所在を明確に言い切って,関係者に「実名発表」への理解を求めている。

報道機関の課題としては,「人権を守るための報道」が大きな意義をもっているとし,メディアスクラム等報道や取材のあり方への批判に対する取り組みへの努力を強調するとともに,関係者の人権を守る取材が必要であり,そのために記者の意識向上を求めている。同時に,なかなか実名を得られない実態をふまえ,新聞協会は「実名が取材のスタートである」として,現場の記者たちに,自力で実名をつかむ努力を求めている。

奥田良胤