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受信料滞納者への「支払い督促」 NHKが簡易裁判所に申し立て

NHKは2006年11月29日, 受信料の支払いが滞っている視聴者33件に対して,初めての民事手続による「支払い督促」を行った。

「支払い督促」というのは,債務者に対して債権者が行う支払い申し立てに基づいて簡易裁判所が行う略式手続のことである。

NHKでは,2004年に相次いで明るみに出た不祥事によって,受信料の支払い拒否や留保が相次ぎ,総数は一時128万件に達した。

この過程で,受信契約をしていない人や受信料を滞納している人が30%程度あることがわかり,NHKに受信料の契約・収納率を高める努力を求める声が高まった。

放送法では,32条1項でNHKの放送を受信できるテレビの所有者にNHKとの契約を義務づけているが,支払いを義務づける条項はない。受信料の支払い義務と滞納割増金等は,総務大臣の認可を受けて契約条項を定めている「日本放送協会放送受信規約」の5 条と12条に規定されている。ところが,テレビ電波の性格上,滞納者や未契約者への電波をとめる手段がないため,電話や電気料金と異なり,受信料の場合は,未契約者や滞納者が多く発生する結果を招いている。 NHKでは2006年1月に公表した経営3か年計画で,準備が整い次第,民事手続による「支払い督促」をすることを明らかにしていた。

NHKは第一段階として,2006年9月から無作為に抽出した東京都内の75件(1事業所を含む)に対して働きかけを行い,支払った人や転居した人を除く48 件に民事手続を前提として10 月末までの支払いを要請した。NHKでは,この間に訪問した回数は多い人で7回,電話での要請は多い人で6回,この他に文書による請求も行った。

10月末までにさらに,14件(1事業所を含む)が受信料を支払った他,転居により郵便物が返送されたのが1件あった。

このためNHKは,残りの33件について「支払い督促」を申し立てた。33件の滞納期間は30か月(4万1,850円)から46か月(10万7,640円)となっている。

「支払い督促」の申し立てにより,簡易裁判所から滞納者に督促状が送付され,滞納者から2週間以内に異議の申し立てがなければ「確定判決」と同じ効力を持ち,裁判所による賃金などの差し押さえが可能となる。異議の申し立てが行われれば,通常の民事訴訟に移行する。

NHKが民事手続をとることについて,民放連の広瀬道貞会長は11月16日の記者会見で「できる限り今の受信料制度の範囲内で,信頼回復をもとに収納率をあげていこう,という考えの下での判断であると思う。法的措置が不要であるならばそれに越したことは無い。不払い,未払いによって受信料が高くなっていることや莫ばく大な収納費用がかかる不合理が解消される必要がある」と述べている。

NHKが法的な手段を取ったことについて一部に批判する意見も出ているが,NHKでは受信料の公平な負担を実現するための措置で,今後東京都内や神奈川県などで対象者を拡大する予定だが,未払い世帯に対して今後とも粘り強く説得する方針に変わりはない,としている。

奥田良胤