メディアフォーカス

中国,メディア管理を再強化へ

中国政府のメディア管理が再度強化されつつあることを示す事件が,5月中旬に表面化した。不動産価格が急騰していることに抗議するため,住宅の不買運動を呼びかけていた広東省深3W市のビジネスマン鄒すうとう涛氏についての報道を,メディアを管理する中国共産党中央宣伝部が差し止めたのである。香港の新聞「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」によると,鄒氏に対しては中国中央テレビ(CCTV)が既にインタビューを行っていたが,放送しないようにとの指示が出たほか,北京テレビや北京の新聞「新京報」も鄒氏を取材することができなくなった。また比較的規制の緩いネット上でも,大手事業者の「網易」がこの問題についての取り扱いを中止し,鄒氏の2 つのブログも5月13日に消去されたという。

党中央宣伝部は約2 年前から放送・新聞・ネットといった国内の各メディアに対する管理を強化しており,地方政府による農地の強制収用をめぐる抗議行動など,多くの社会問題について報道を禁止する措置を取ってきた。これに対し自由化を求めるメディア界の反発も強く,去年末には当局が「新京報」の編集責任者3 人を更迭しようとしたところ,抗議する記者達による事実上のストライキが発生した。この問題は編集長以外の2 人について復帰を認めることで一応の解決が図られたが,その直後の今年1 月,今度は中国共産主義青年団の傘下にある「中国青年報」の発行する週刊新聞「氷点週刊」の編集長解任と週刊新聞の発行差し止め処分が出された。直接の原因は「義和団の乱」など歴史上の事件をめぐって広州の大学教授が共産党の歴史教育のあり方に疑問を呈した論文を掲載したことだったが,編集長を解任された李大同氏は当局の処分に対し公然と反旗を翻し,その内容がネットを通じて世界中に広まる「大事件」となった。結局「氷点週刊」は問題の論文への反論を掲載することで発行停止は1 か月で解除となったが,メディアへの処分に対し記者や編集者が反旗を翻す事件が続いたことから中央宣伝部の権威は傷ついた。その後しばらく当局の公然のメディア介入は見られなくなり,中国中央テレビの人気のニュース評論番組『焦点訪談』でも,地方政府が炭鉱事故の死者数をごまかした事件の追及など,一時減少していた「調査報道」が復活した。

今回,再度管理強化の措置が取られたわけだが,これと時を同じくして5月16日,中央宣伝部の指導下にある国務院新聞出版総署は,浙江省の記者が批判的な記事を書かないでおくことの代償として,石油会社に対し35万元(約500万円)の支払いを求めるなど,過去7 か月の間に取材先に対する金銭の要求で4人の記者が逮捕されたことを明らかにし,メディアに対し綱紀の粛正を指示した。中国のメディア研究者は,記者の腐敗堕落が起きているのは事実であるものの,中央宣伝部がこれをメディア管理強化の口実にしていると指摘する。

2年前に「中央宣伝部を討伐せよ」というテーマの原稿を執筆し,その内容がネット上で流れ大反響を呼んだ元北京大学助教授の焦国標氏は,「中央宣伝部のメディア支配の“刀”は切れ味が鈍った“鈍刀”に変質している。今後もメディアの中から当局の権威に立ち向かうジャーナリストが現れ,言論の自由を求める戦いが続く」と話している。

山田賢一