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大詰めを迎えた政府・自民党の論議通信と放送融合時代の制度改革

通信と放送の融合にともなう政府・自民党の制度改革論議が大詰めを迎え,政府の「規制改革・民間開放推進会議」(議長・宮内義彦オリックス会長),総務相の私的懇談会「通信・放送の在り方に関する懇談会」(座長・松原聡東洋大教授),自民党の「通信・放送産業高度化小委員会」(委員長・片山虎之助参院議員)が,最終提言に向けて2006年5 月に相次いで提言の骨子・素案を発表した。

「規制改革・民間開放推進会議」は5月30日に,課題の論点を整理して発表した。通信と放送に関する部分の概要は以下の通りである。

NHK については,(1)受信料で行う事業範囲は真に必要なものに限定する。それ以外の事業は,利用者との自由契約による料金収入によることとする。(2)受信料で賄うのは報道等の基幹的なサービスだけとし,娯楽番組,番組アーカイブス,国際放送等は,本体とは別組織とする。(3) NHK が保有する8 波は大幅に削減する。(4)子会社等については一層の統廃合を進め,業務を効率化する。業務委託の外部取引では,競争契約比率を向上させる。番組制作業務委託では,企画提案手続きを透明化・明確化する,などとしている。

通信,放送関連規制の見直しについては,(1)マスメディアの集中排除原則の緩和,異なる地域間の複数局支配に関する規制の緩和,地上波放送用の周波数帯の他事業者へのリースの容認,地域を限定しないIP マルチキャスト放送による地上波デジタル放送の再送信,などを通じて放送事業者の経営基盤の強化を図る。(2)新しいメディアについても有線テレビジョン放送と同様に放送事業者から確実に再送信の同意を得ることができるようにする。(3) NTT については,アクセス部門を含むボトルネック設備の機能分離の徹底を図る。できるだけ早期に通信関連法制の抜本的改正を行い,持株会社の廃止,東西会社の業務範囲規制の撤廃を行う。(4)インターネット配信の著作権法上の位置づけを明確化する。 IP マルチキャスト放送に関しては,著作権法上の有線放送と位置づける,などとしている。

また,「通信・放送の在り方に関する懇談会」は5月16日に最終報告書に盛り込む内容の骨子案を発表した。具体的な提言の概要は以下の通りである。

NHK については,(1)一部委員を常勤化するなどして経営委員会の機能を強化する。(2)チャンネル数は8波を見直す。しかし,地上テレビを削減することには問題がある。(3)子会社は大幅に削減し,NHK グループ全体をスリム化する。(4) NHK アーカイブスをブロードバンド上で積極的に公開する。(5)国際放送は,外国人向けを早期に開始する。NHK 本体か,子会社で行うかは検討する。(6)受信料徴収コストを削減した上で,受信料水準を大幅に引き下げる。未払い対策は,NHK 改革が履行されたあとに,支払い義務化,罰則化を検討する,などとしている。

民放に関しては,(1)マスメディアの集中排除原則を緩和する。手法としては,持株会社方式,キー局による地方局の子会社化などが考えられるが,キー局同士の統合は認められない。(2)地上波デジタル放送をIP マルチキャスト放送で再送信する場合は,基本的には地域制限を設けない,などとしている。

NTT については,(1)事業展開の自由度を高める必要があり,速やかに検討する。(2)NTT がアクセス網をはじめとするボトルネック設備を保有しているのは,健全な競争を阻害するおそれがある,などとしている。

一方,自民党の「通信・放送産業高度化小委員会」は5 月17 日に「今後の放送・通信の在り方」についての素案を発表した。

具体的な提言の概要は以下の通りである。

NHK については,「今後とも総合的な放送を行っていくべき」とした上で,(1)保有している8波のうち,役割を終えたチャンネルは削減する。ラジオ,衛星チャンネルを削減の対象とする。(2)外国人向けの国際放送を創設する。NHK が行うのか,子会社で行うのかは今後検討するが,必要な国費を投入する。(3)インターネットの本格的な利用を可能にする。その場合,適切な運営主体の在り方を検討し,利用者から適正な対価を徴収する。(4) NHKアーカイブスは,インターネットを通じて広く視聴できるようにする。(5) NHK 放送技術研究所は子会社化を検討する。(6)関連子会社については,業務内容を見直し,統廃合,人員削減を行う。(7)受信料制度については,支払い義務化が必要である。導入時期は2007年3月頃に判断するのが適当である。義務化によっても,十分な効果が得られない場合,強制徴収や罰則の導入を検討すべきである。(8)経営委員会の監督機能を強化するため,一部委員の常勤化を検討する,などとしている。

民放関係では,(1)ハード・ソフトの一致原則は,緊急災害時の情報提供を行う上で必要不可欠であり,引き続き堅持する。(2)県域免許は,当面維持する。(3)マスメディア集中排除原則は緩和する。持株会社方式,あるいは直接出資によるグループ経営を可能にする,などとしている。

通信関係では,(1)放送番組のインターネット上での二次利用を促進するため,著作権制度を見直すべきである。IP マルチキャスト放送による地上デジタル放送の再送信については,著作権法上もケーブルテレビと同様に放送として取り扱う。再送信にあたって地上放送事業者の放送区域外にも送信されることには十分な検討が必要である。(2) NTT の在り方については,今後のブロードバンドの普及状況などを見極めた上で,2010年頃に関係法令の改正を検討する,などとしている。

ところで,IP マルチキャスト放送の著作権法上の取り扱いについて,「文化審議会」は5月30日に著作権分科会小委員会を開催し,報告書の骨子をまとめた。それによると,「放送の同時再送信」部分については「有線放送」と同様の扱いとし,著作権処理を緩和することになった。

政府・自民党の放送と通信の融合に伴う制度改革論議は,大詰めを迎えているが,それぞれの骨子・素案のなかでは異なる提言となっている部分が少なくない。

たとえば,NTT 法制の見直しについては,総務相の懇談会が「速やかな抜本改革」を打ち出しているのに対し,自民党の小委員会は,必要な法改正は2010年頃でよいとしている。公共放送サービスについても,小委員会は「娯楽等を含め,総合的な放送を行っていくべき」としたのに対し,民間開放推進会議では,報道などの基幹的サービスは受信料で賄うが,それ以外は有料・スクランブル化して自由契約にすべきだとしている。こうした部分は,今後政府の政策決定プロセスのなかで調整されていくことになる。

奥田良胤