メディアフォーカス

TBSと楽天,業務提携協議に合意

インターネット大手の楽天が民放キー局TBSの株式を大量に取得して経営統合を提案し,TBSと対立していた問題は,金融機関の仲介で2005年11月30日両社が業務提携の協議に入ることで合意し,覚書を締結した。

楽天は,10月13日にTBSの発行済み株式の15.46%を約880億円で取得して筆頭株主となり,TBSに共同持ち株会社方式による経営統合を申し入れたと発表した。楽天はTBSとの経営統合によって世界に通用するメディアグループをつくることができるとし,放送と通信を融合させた具体的な事業として,

  • (1) 楽天の会員に「見たい番組」情報を提供する
  • (2) 番組や広告を視聴した場合に買い物に利用できる「楽天ポイント」を付与して視聴者を拡大する
  • (3) いつでも見たいときに見られる番組配信をネットで拡大する

,などを提案した。

TBSは,経営統合という突然の申し入れに驚き,反発した。TBSは社内に検討チームをつくったが,慎重な姿勢で対応し,逆に楽天には株を買い増さないよう要求した。

ところが,楽天は10月26日に19.09%まで株を買い増したと発表した。TBSは,企業買収防衛策として2005年6月に新株予約権を発行していた。新株予約権は,買収者が現れた場合に,予約権購入者に新株を割り当て買収者の株式保有率を下げることを目的とするもので,買収者の保有株式が20%を超えた場合に,新株発行が可能となっていた。楽天はぎりぎりまで買い増したのである。

一方,TBSと楽天の双方がプロ野球の球団を保有しているため,経営統合の場合,1社が2球団の保有を禁じた野球協約に違反するとプロ野球のオーナー会議で指摘された。さらに,TBS以外の民放キー局の首脳も楽天のやり方を批判するなど,両社の対立は放送と通信の融合がすすむなか放送事業とネット事業との攻防というかたちで,社会的関心事となった。

TBSは,楽天の申し入れを検討するとしながらも,インターネット事業への展開を独自にすすめ,これに対して楽天も株式の公開買い付け(TOB)を検討しはじめたと報道されるなど両社の対立は深刻化していった。

こうした状況下,金融機関関係者が水面下で仲介に入って歩みよりの気運が強まり,11月30日に,みずほコーポレート銀行の斉藤宏頭取の仲介で,両社が業務提携に向けた協議を始める覚書に調印した。

覚書の概要は,

  • (1) 両社は放送とインターネットの連携を実現するため「業務提携委員会」を発足させる
  • (2) 楽天は経営統合の提案を一旦取り下げる
  • (3) 協議期間中,楽天はTBSの持株比率を10%未満に引き下げ,超過分はみずほ信託銀行に信託する
  • (4) 楽天のTBSに対する最終的な出資比率などは両社で協議する
  • (5) 協議期間は来年3月末までとするが,延長できるものとする

,となっている。

TBSと楽天の経営権をめぐる対立は,とりあえず合意にいたったが,楽天は所有株式を放棄したわけではなく,2006年3月末をこえて,最終的に業務提携が合意されなかった場合,対立が再燃する可能性が残されている。

奥田良胤