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2007年,BBCアラビア語テレビ開始へ

~活発な欧米の中東情報戦略~

BBCは10月25日,中東の視聴者の要望に応えるため,アラビア語テレビ放送を2007年に始めると発表した。政府資金の国際放送としては初めてのテレビ放送となる。放送時間は当面は1日12時間,この放送に必要な年間経費1,900万ポンド(38億円)は,ブルガリア語,ポーランド語,ギリシャ語など東欧9言語とタイ語のあわせて10言語の放送を2006年3月までに廃止してねん出するという。

廃止される言語の国々は既にEUに加盟するなど,経済的に成長をとげ,放送の目的は達成されており影響は少ないという。

アラビア語は,BBCの国際放送では1938年に初めて外国語として使用され,以来その正確な情報でアラブ世界でも実績を上げている。そのBBCによるアラビア語のテレビ放送は,アルジャジーラ,アルアラビアなど中東衛星テレビにとっても強敵となる。アルジャジーラのサトナム広報部長は「BBCが参入することで,健全な競争が促進される。BBCの参入を歓迎する」と語る。

BBC国際放送は,42の言語を使用するが,資金はすべて国費であり,今回の決定も政府による中東情報戦略としての判断である。BBCの労働組合は,今後の人員整理への懸念とともに,BBCが政府の国際戦略に利用されているという印象を海外の人々に与えるのではないかと複雑な反応をみせている。

BBCは,実はかつてアラビア語テレビ放送を試みたことがある。1994年にサウジアラビアの衛星テレビ・オービットとBBCが合弁でニュースチャンネルを開設したが,編集権をめぐる対立から,わずか18か月で頓挫している。今回はBBC単独での進出であり,また編集権については,国際放送も国内放送と同様に政府からの干渉を受けないという伝統が,初代リース会長の時代から確立されているという。

一方アメリカは,既に昨年2月から,中東向けのアラビア語テレビ局アルフッラ(アラビア語で「自由なるもの」)を開局している。アメリカ議会が 6,200万ドル(65億円)の予算を計上し,ヴァージニア州のスタジオから,衛星を通じて中東に放送している。アメリカは,2002年3月にラジオ・サワ(アラビア語で「一緒に」)も開局して,ポップス音楽などで中東の若者を中心に人気を集めている。アルフッラの開局も,ラジオ・サワの成功が背景にあるといわれる。

こうした米英の動きを受けて,フランスも11月,新たにフランス国際情報チャンネルCFIIを2006年末までに開局する方針を明らかにした。放送は 10分毎のニュースなどを,まずフランス語で24時間体制で放送し,その後直ちにこれらのニュースを英語,アラビア語,スペイン語に転換して放送するという。このための予算6,500万ユーロ(90億円)を議会に要求するとともに,250人前後の編集スタッフを集め始めている。ドイツもドイチェベレ・テレビで1日3時間のアラビア語放送を始めている。

これに対しアルジャジーラは,来年3月,ドーハ,ロンドン,ワシントン,クアラルンプールをリレー方式で放送する英語ニュースチャンネルを開局する予定である。中東をめぐる情報の双方向が一段と高まることになる。

太田昌宏