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韓国,放送委員会が 衛星DMBの地上波再送信を承認

韓国で放送に関する政策の立案と規制に責任を持つ放送委員会は,4月19日,懸案となっていた衛星利用の移動体向けデジタル・マルチメディア放送「衛星 DMB」による地上波再送信を,個々の地上放送事業者(KBS,MBC,SBS,EBSの4社)と衛星DMB事業者(TUメディア)が再送信約定書を締結することを前提に承認する方針を決定した。

放送委員会は,去年10月5日,衛星DMBの地上波再送信に強い反対論があることを考慮し,衛星DMBの地上波再送信を一旦不許可とし,同委員会が地上波によるデジタル・マルチメディア放送「地上波DMB」の事業者を選定する時点で改めて検討するとの立場を表明していた(地上波DMB事業者の選定は3月 28日に行われた)。

放送委員会の今回の決定について,地上波再送信を衛星DMB事業成功の鍵と見るTUメディア(移動通信最大手SKテレコムの子会社)は当然歓迎しているが,これまで地上波再送信に強く反対してきた公共放送KBS(韓国放送公社)や地域放送局,全国言論労組などは激しく反発している。

特にマスコミ各社の労組で組織する全国言論労組は,「再送信問題を当事者間の協議に委ねるという決定は,放送委員会の権限を自ら放棄する無責任なもの」であり,「通信業界の権益のために公益を犠牲にする決定」と断じ,あらゆる手段を行使して阻止する構えを見せている。また地域放送局の業界団体「地域放送協議会」も,衛星DMBは全国を一つの放送圏域とするもので,地上放送の再送信を認めると地域放送局の存在意義そのものが危うくなるとし,放送委員会への厳しい抗議の姿勢を示している。

TUメディアが再送信を希望するチャンネルを持つ地上放送4社の対応は異なっている。地上波DMBの旗手を任ずる公共放送KBSは,衛星DMBに地上波再送信を認めればライバル関係になるとし一貫して地上波再送信に反対してきたが,改めて「要求には応じない」との立場を表明した。一方MBC(文化放送)と SBS(ソウル放送)は,TUメディアに資本参加しておりKBSとは立場が違うが,内部に強い反対論を展開する労組を抱え慎重な態度を崩していない。地上波DMB事業者の選定から唯一もれDMB事業でTUメディアと競合関係にないEBS(教育放送公社)は,TUメディアが再送信を要請してくれば状況と条件を考慮し判断するとしている。

TUメディアは,昨年末,地上波再送信の不許可決定を受け一時は衛星DMB事業からの撤退も検討したとされるが,今年1月10日,試験サービスを開始,5 月1日には有料の商用サービスに移行させた。しかし,地上放送4チャンネルの再送信を早期に実現できる目処(めど)がいまだ立っていないことから,映像チャンネルを7チャンネルに減らし(当初計画では12チャンネル),5月の1か月間は加入費(2万ウォン)と月額視聴料(1万3千ウォン)を免除する措置を採った。

地上波DMBの事業者選定を受けた6事業者の内KBSなどの地上放送各社は,早ければ7月中にも無料サービスを基本とする地上波DMBの試験放送を開始する構えで,地上波再送信をめぐるTUメディアとの交渉がどう進むか注目される。

塙 和磨