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仏地上デジタル放送,HDTV導入へ

フランスの地上デジタル放送は2005年3月に無料チャンネル, 9月から6か月以内に有料チャンネルが放送を開始する予定だが, 有料チャンネルではHDTVが導入されることになった。これまで,HDTVを 可能にする信号圧縮方式であるMPEG-4方式導入をめぐって議論が行われてきた。 ヨーロッパですでに地上デジタル放送を開始した国では,いずれも MPEG-2(MPEG:Moving Picture Experts Group)方式が採用されている。 しかし,商業テレビのTF1を筆頭に,MPEG-4方式の採用を求める声も強くなった。 フランスでは放送開始が延期されているうちに,MPEG-4方式の実用化が 視野に入ってきたという技術的な背景がある。

フランスの全世帯の3分の2は衛星放送にもケーブルにも加入しておらず, 多くの世帯は現行のアナログ地上波テレビで満足している。こうした状況では, 地上デジタル放送が開始されればセットトップボックスを買って接続するだけで 約30チャンネルを楽しむことができるといっても,その普及は困難である。 従って,HDTVや携帯受信など,まったく新しい魅力を提供できる方式を採用 すべきだ,というのがMPEG-4方式派の主張である。

昨年10月にはHDTVなどが可能なMPEG-4方式を採用するために,放送開始の 延期を求める報告書が首相に提出され,対立は深まった。しかし,11月になって, 首相は,無料チャンネルの放送は予定通りMPEG-2方式により2005年3月に開始する と決定した。また有料チャンネルの信号圧縮方式は年末までに決定するとした。 これに対して,2つの方式の混在は問題を引き起こすという声が上がり,TF1も, 1つの方式でいくべきだとしてMPEG-2方式の支持を表明した。

こうしたことを受けて,規制機関のCSAは12月21日,有料チャンネルの 信号圧縮方式をMPEG-2方式とするよう求める書簡を首相に送ることを決定した。 書簡は12月23日に首相に伝達されたが,首相は受け取りを拒否した。同日, 首相はゲマール経済担当相,ド・ヴァーブル文化相,デヴェジャン産業担当相の 提案を受けて,以下の決定を行った。

  • 地上デジタル放送の放送波の規格と受信機器に関する2つの 政令を改正する。改正により有料チャンネルにはMPEG-4方式の 採用を義務づける。改正案については,EU委員会とCSAの意見を求める。
  • 政府とCSAは,MPEG-4方式導入のスケジュールについて検討する。

首相の声明は,今回の選択により周波数に余裕が生じ,ローカルサービス などの新サービスや,HDTV,携帯受信の発展を可能にすることを強調している。 CSAは,MPEG-4方式の採用を決めた国はない,また多くの放送事業者はMPEG-2方式を 望んでいるし,2つの方式の混在は混乱を招くとして,有料チャンネルでも MPEG-2方式を採用するように主張してきたが,電機業界や映画界の主張が 認められた形となった。

電機業界では,現在開発中のMPEG-4方式を2005年中に実用化するのは 困難としており,有料チャンネルの放送開始は,2006年の春または年末にずれ込む, との見方が出ている。

豊田 一夫