国内放送事情

原子力災害と避難情報・メディア

~福島第一原発事故の事例検証~

福島第一原発事故は、複数の原子炉の炉心が次々と溶融し、長期に亘って放射性物質の漏洩が続くという原発史上、類例のない大事故となった。放射性物質漏洩の危険が迫る中で、避難や屋内退避の情報は的確に伝達されたのか、されていなかったとすれば、それによって何が起きたのか、福島第一原発周辺にある大熊町、浪江町、南相馬市で調査を行った。

地震や津波で通信系メディアが大きな被害を受け、情報の伝達ではテレビが重要な役割を果たした。調査した自治体では、テレビではじめて避難指示を知ったというケースが殆どだった。国や県からは、風向き・風速、放射線量の予測など避難誘導に必要なデータが殆ど提供されなかった。情報の理解と共有が行き届かなかった。避難情報が遅れて、住民が急性放射線障害を起こすような事態は避けられた。しかし、格納容器の圧力が異常に高くなっていることが確認された5時間後にようやく避難指示の範囲を拡大したり、格納容器の一部が破損して、原発の敷地境界で放射線のレベルが異常に上がっているのに、4時間も経って屋内退避の指示の範囲を拡げたりと、タイミングが不適切と思われるケースもあった。

国は記者会見で、住民が不安に駆られてパニックに陥ることがないよう、抑えた言い回しに終始した。根拠となるデータの開示が不十分な中で、水素爆発が次々と起き、その度に避難範囲が拡大された。その結果、国やマスメディアの公的情報に対する不信が拡がった。NHKは災害対策基本法に準じて、原子力災害の場合にも、避難や屋内退避の情報などを速報する。災害発生直後はデータを記者が確認をできないことも多いが、人命に係る以上、国の発表を速報せざるを得ない。発表の裏付けとなるデータの開示とデータに基づく納得のゆく説明を国に対して常に求めているスタンスを、放送を通じて視聴者に明らかにすることが重要である。

メディア研究部(メディア動向)福長秀彦