国内放送事情

放送の「ソーシャルメディア性」を拡張する試み

~番組レビューSNSサイト“teleda”の実証実験から①~

インターネットの普及を背景にした活発化している、放送事業者によるVOD型サービスに、SNSの要素を加えることによって、ネット上に放送番組が媒介するコミュニケーション(=「公共の広場」)を生み出すことができるのではないか。そしてそれは、放送メディアがそもそも持っている「ソーシャルメディア性」をネットの特性を生かしながら拡張し、活性化させることに繋がるのではないか。

こうした問題意識から、放送文化研究所と放送技術研究所では、人々がネット上で放送番組を視聴し、それらについての意見や感想を交換することのできる試験的なウェブサイト“teleda”を構築し、その実証実験を進めてきた。今号、次号の2回にわたり、実験結果と今後に向けての可能性、課題等について報告する。1回目の本稿では、サイトと実験の概要および1次分析の結果を報告する。

アンケートの結果、およびユーザーのログ(視聴、書き込みの記録)分析の結果は次のように要約できる。

○ teledaは、VODとSNSの要素を組み合わせたプラットフォームであるが、通常のSNS利用の中心層(20~30代)とは異なり、今回の実験では60代以上の高年層が活発に利用した。このことは、アンケート結果からもログ分析の結果からも裏付けられている。

○ 多くの実験参加者のあいだで、teledaの諸機能を利用して、番組に対する意見や感想を軸とした他者とのコミュニケーションを経験した結果、NHKの番組に対する興味・関心やNHKへの親近感が増大したり、これまで見ることのなかった番組と出会ったり、テレビの楽しみを再発見する、といった変化が生じた。

○ 実験期間中にteleda上で多く視聴された番組と、当該番組の放送時の視聴率との間には相関はみられず、放送時に視聴率が高くなかった番組でもteledaでは多く視聴されるといったケースが少なくない。また視聴される番組が少数の上位番組に集中することなく、典型的なロングテールの傾向も観測された。これらのことは、SNSによる口コミ効果が有効に機能していたことを示すものである。

○ ただし、視聴や書き込みの傾向は、番組ジャンルによっても異なっている。ドキュメンタリーや報道番組など、政治社会的なテーマを扱った番組では、ユーザー相互の活発で持続的な議論に発展するケースが多く、そこから新たな視聴を呼び込むといった、視聴と書き込みの連鎖的循環が生じやすい。また、そうした現象は特に60代以上のユーザーのあいだで顕著である。

○ 「口コミ」や「話題性」がteleda上での視聴行動に大きな影響を与えているのは、特に視聴数の上位番組である。視聴数1~100位の番組では、その番組の視聴に到達した経路の過半数が「他者の行動」、すなわち「口コミ」や「話題性」となっている。こうした結果は、VODサービスにSNS機能を付加することで通常とは異なる幅広い視聴行動を生み出す可能性があることを示している。

メディア研究部(メディア史)   米倉律
放送技術研究所 人間・情報科学研究部   宮崎勝
放送技術研究所 次世代プラットフォーム研究部 浜口斉周