国内放送事情

災害の切迫性と警報・メディア

~2010年奄美豪雨の事例から~

リスク・コミュニケーションのPublic Warning(公衆警報)は、警報などのAlert(警戒情報)と避難情報などのNotification(啓発情報)から成る。Alertの危機感が伝わらなければ、Notificationは定まらない。また、災害の危険が切迫しているほど、AlertとNotificationの時間差を短くしなければならない。

3人が死亡し、住宅やライフラインに大きな被害が出た2010年10月の奄美豪雨では、危機感がどのように伝達されたのか検証した。

10月20日午前3時39分、奄美大島の龍郷町や奄美市などに大雨警報と洪水警報、午前5時20分には土砂災害警戒情報が出された。その直後、名瀬測候所は、龍郷町や奄美市などの役場に事態の深刻さを電話で訴えた。龍郷町では、午前3時から既に猛烈な雨が降り出し、道路が随所で冠水していたから、危機感はすぐに伝わった。かなり早い段階から、防災行政無線で住民に警報を知らせたり、自主避難の呼びかけをしたりしていた。

奄美市では、当初はさほど雨脚が強くなく、目立った被害も報告されていなかったので、警報や測候所からの電話でも、危機感はすぐには伝わらなかった。午前 10時過ぎになって、南西部の住用町で猛烈な雨が降り始め、正午前に住用総合支所が防災行政無線を使って避難勧告を出した。これは、Alertによる危機感からというよりは、水害の発生を目の当たりにした職員の現場判断による。

放送メディアが事態の深刻さを明確に認識したのは、正午前の記録的短時間大雨情報以降である。測候所の危機感や龍郷町の状況が、迅速にマスメディアの放送に伝わっていれば、もう少し早く周辺の自治体や住民の間で危機感を共有できたのではないか。市町村が使うメディアは、基本的には地元向けで、狭いエリアで完結されがちだが、放送は広範に危機を伝え、対応を促すことができる。

豪雨災害が多発し、人々の「警報慣れ」が懸念されている今日、放送メディアは、Alertが予測する災害の切迫性や強度を的確に読み解き、広く、迅速に伝えて行く必要がある。

メディア研究部(メディア動向) 福長秀彦