国内放送事情

調査研究ノート

テレビ視聴とコミュニケーションを立体化する試み

~番組レビューサイトを用いた実証実験~

インターネットの普及に伴い、放送事業者によるネットサービスが活発化しているが、現行のVOD(ビデオオンデマンド)のようなサービスは既存の放送と同様に「1対N(不特定多数)」型であり、インターネットのメディア特性を充分に活かしているとは言えない。インターネットの技術的可能性を活用し、番組の視聴をきっかけにしたユーザー同士のコミュニケーション(=横の回路)を作り出すことこそ公共放送事業者の行うネット展開にふさわしいのではないか、という問題意識から、放送文化研究所と放送技術研究所では共同の研究プロジェクトを立ち上げ、試験的なインターネットサイト(Teleda)の構築とこれを用いた実証実験を行ってきた。

本稿ではその中間報告を行いながら、今後に向けた課題や可能性等について考察したい。

実験サイトTeledaの主な機能としては、①テレビ番組のVOD機能、②番組についてのコメントの書き込みや評価をする機能、③レコメンド機能、④ユーザーのプロフィールなどを表示するマイページ、等が挙げられる。

今年2~3月にTeledaを用いた小規模な実証実験を行った。その実験には、124人のモニター(30代、40代の男女)が参加、3週間にわたってTeledaを自由に利用してもらい、意見や感想を聞いたほか彼らの行動についてログの解析なども行った。

実験に当たっては、Teledaの利用によってユーザーのあいだに、a) 行動の変化と b) 意識の変化が生じるという作業仮説を立てていたが、これらの仮説は概ね支持されたと考えてもよいように思われる。

すなわち第一に、Teledaのようなサイト上での番組に関するコミュニケーション(書き込みやレコメンド、評価など)は、多くのユーザーに新たな番組との「出会い」や「気づき」をもたらしたり、視聴する番組ジャンルの幅を拡大させたりするといった、視聴行動上の変化をもたらしている。また第二に、 Teleda上での番組に関するコミュニケーションへの参加によって、番組のテーマ・内容やNHKに対する興味、関心、親近感などを増加させたり、あるいは番組を介したコミュニケーションそのものを楽しむといった意識面での変化を経験しているユーザーも少なくない。

これらの結果は、VOD型の番組視聴機能と番組に関するコミュニケーション機能との立体的な組み合わせによって、人々のテレビ経験をより便利で豊かなものにするサービスを生み出し得るという可能性を示している。またそれだけでなく、テレビ視聴とコミュニケーションのネット上での立体的な組み合わせは、人々の情報空間の中に「公共の広場」を設営するという公共放送の社会的役割を遂行していくうえでも、大きな意味と可能性を持っているように思われる。

ただし今回の実験は、参加者が120人(30代、40代のモニター)と限られていたうえに、実験期間も3週間と短かったため、上記のような展望もあくまでも仮説的なものに過ぎない。したがって今後、さらに大規模で長期間の実験によって、より詳細かつ多角的に検証していく作業が必要である。

メディア研究部(メディア史)米倉律 (メディア動向)小川浩司 計画管理部(計画)東山一郎