国内放送事情

「多文化社会化」に放送はどう向き合うべきか②

~静岡県・浜松地域における「受け手」ヒアリング調査から~

本稿は10月号に引き続き、ブラジル人が多く居住しているエリア・静岡県浜松地域で行ったヒアリング調査の結果である。今回は、各種メディア(放送、新聞、インターネットなど)とそこから流れる情報の「受け手」側であるブラジル人が、日常どのようなメディア環境の中に生活し、テレビをはじめとするメディアをどのように利用・受容しているのか、またその潜在的ニーズはどこにあるのか等について、ブラジル人世帯に聞いた結果を報告し、知見を整理した。

調査は、2009年5月、計6世帯を機縁法で抽出して行った。聞き取りにあたっては、可能な限り対象者の自宅で世帯内の大人全員に同席してもらい、本人だけでなく、子供を含む世帯全員のメディア利用状況について質問を行った。得られた知見は、次のように要約できる。

第一に、ブラジル人にとって日本の地上波テレビ放送は、言葉(日本語)の壁が大きいこともあり、あまり大きな位置を占めていない。視聴時間、接触頻度はかなり限定的である。また、昨年来の経済危機の影響もあって、有料のポルトガル語放送は費用負担が重く、特に経済状態が良くない人たち達の間では視聴されにくくなっている。

第二に、テレビと比較するとインターネットの存在感は極めて大きい。情報取得のみならず同胞や母国とのコミュニケーション手段としても活用されるインターネット(及び携帯電話)は、今やブラジル人にとって不可欠な「ライフライン」となっている。

第三に、情報・メディアのレイヤー(階層)別では、ホスト社会についてのニュース・情報が、それ以外と比較して質・量ともに劣っており、この水準の情報・メディアに対するニーズは大きい。この場合のホスト社会は、日本という単位だけでなく、東海地方や静岡県といった広域の「地域」も含む。

第四に、ブラジル人の目には日本のメディアにおける自分たちの「表象」は、あまりフェアなものとは映っておらず、時として差別的もしくはステレオタイプなものであるという印象を与えている。このように、彼らの日常的な意識やアイデンティティの構成にメディアが深く関与している可能性が高い。

今後は、既存の組織やジャンルの壁を越えた「多元的で多文化的なメディア公共圏」の形成を展望しながら、その可能性の条件を明らかにしていく作業を急ぐ必要がある。

メディア研究部(番組研究)谷 正名
メディア研究部(海外メディア)米倉 律