国内放送事情

警報伝達と携帯ネットワーク(上)

~同報配信と一般向け緊急地震速報~

国民の安全を脅かす自然災害や事故・事件、伝染性の疾病などの緊急情報がどのように発信され、国民一人一人に的確に伝えられたか?公衆に対する「緊急情報伝達」の在り方を検証することはジャーナリズムにとって大きな課題である。近年の情報通信技術の進展によって、行政機関の警報発信は迅速化する傾向にある。これに伴って放送や通信といったメディアは警報を広く一般国民に配信する速度や手際の良さを問われることになる。警報を最適に配信するための要件とは何か?携帯ネットワークによる緊急地震速報の配信を例に考察する。

放送は一度に何十万人もの受信者に向けて、情報を伝えることができる。通信でこれをやろうとすれば、ネットワーク内の交換機などが輻輳して情報が遅延する恐れがある。従って、公衆に警報を配信するメディアとしては、長らく放送が主役を務めてきた。しかし、2007年10月に一般向け緊急地震速報がスタートすると、国内の携帯事業者2社は、同報配信という技術を使ってその配信を始めた。これによって、携帯ネットワークは警報配信の本格的な機能を帯びることになった。

一般向け緊急地震速報の配信に使われている同報配信技術では、端末とネットワーク側(交換機など)が一対一の応答をしない。放送のようにネットワーク側から各端末に警報が一方的に送られる一対多の関係であるから、輻輳の恐れがない。また気象庁からの警報電文に含まれる地域コードから該当する受信端末のエリアを特定できる。つまり警報の該当する地域を絞り込むことができる。

同報配信技術による配信時間は、10秒以内である。第3世代携帯(3G)の標準仕様を策定する国際プロジェクトの分析では、配信時間は8.4秒で、専ら無線区間で時間がかかる。一般向け緊急地震速報は秒刻みのシビアな迅速性が求められる警報であり、国際プロジェクトでは、配信時間の短縮による効果などについて独自の試算を行っている。

メディア研究部  福長 秀彦