国内放送事情

【シリーズ】 放送番組の流通 著作権をめぐる疑問を解く

第三回 IP再送信は可能か?

総務省の情報通信審議会は、05年7月「第二次中間答申」を発表した。答申は、地上デジタル放送への全面移行のため、いわゆる「放送と通信の融合」を活用したデジタル放送の普及策を積極的に講じるべきだとして、具体的に、ブロードバンド通信回線を放送の伝送路として用いる「IP再送信」を放送システムの中に取り入れるシナリオも提示。地上波放送事業者に衝撃を与えた。シリーズ最終回は、放送と通信の融合の最前線ともいえる「IP再送信」を契機に、著作権制度の「放送」の位置づけとその意味を見ていく。

著作権制度上、放送は「放送事業者の権利」規定で、勝手に録画されたり再送信されたりしないように四つの支分権が設けられ、大量の著作物使用を行う「放送」のコンテンツ送信メディアとしての安全性が担保されている。

一方、放送制度上にも、有線テレビジョン放送法、電気通信役務利用放送法などに「再送信」をめぐる規定がある。これまで、ケーブルテレビによる再送信をめぐっては、両制度の規定を踏まえて、権利処理の契約ルールなど、矛盾や問題が生じない形が、関係者の協議によって整えられている。

しかし、放送制度に、IPマルチキャストという放送と通信の両面を持つ放送事業が登場し大きな問題となっている。放送制度と著作権制度のそれぞれの「放送概念」のズレを背景に、著作権制度を所管する文化庁著作権課は、電気通信役務利用放送事業に登録されたIPマルチキャストについて「放送ではない」としており、従来の枠組みでの権利処理は不可能だからである。

これに加えて、不特定の視聴者に大量のコンテンツを送り届ける責任を重視する立場にある放送事業者にとっても、IPマルチキャストが放送と同等の伝送路として許容できるものかどうか、著作権制度上の許諾権者として判断を問われる事態といえる。放送と通信の連携の形を探るには、放送制度だけでなく、著作権制度の規定やその基本的な考え方をあわせて議論していくことが不可欠になっている。

研究主幹 竹内冬郎