国内放送事情

障害者と「情報のユニバーサルデザイン」

~デジタル放送時代の課題と可能性~

視覚障害のある人が、パソコン画面を音声読み上げソフトで読んだり、聴覚障害のある人が字幕放送でテレビ番組を楽しむことは、全ての人が「情報」を等しく入手するための「情報のユニバーサルデザイン」である。ブロードバンドや高機能携帯の普及、放送のデジタル化などで大量の情報が瞬時に、あるいは「いつでもどこでも」やり取りできる高度情報社会となる中で、あらためて「情報のユニバーサルデザイン」が問われている。

パソコンインターネットの世界では、国際競争にさらされる情報通信産業界の取り組みと、国策としてのIT化推進が原動力となり、日本の障害者自身の「情報保障」の要求や海外の障害者差別禁止法の影響などが互いを刺激しながら進展し、関連法規とそれを実行するための規格などが整いつつある。実効性があるかどうかはもちろん障害当事者の評価を待たねばならないが、少なくとも「アクセシビリティ」がひとつの重要な概念として定着しつつある。一方放送においては、アナログ停波まで5年余りとなり、これまでの「字幕付与可能なものへの字幕付与」だけではなく新たな取り組みを要望される時代を迎えている。国際的なアクセシビリティ規格を整えつつあるインターネットは、それと融合してゆく放送にも更なるアクセシビリティを迫るものとなる。当事者からの懸念をひとつひとつ解決してゆく困難な作業が求められている。

本稿では、インターネットと放送という二つの舞台で、これまでにどのような「ユニバーサルデザイン」の取り組みが行われているのか、法令、指針、データ、論考などを整理する。また、上記の二つの舞台が「放送と通信の融合」という言葉に象徴される新しい時代を迎える今日、そこにどのような可能性と課題が横たわっているのかについて、当事者や研究者のヒアリングも踏まえて若干の考察を試みたいと思う。

主任研究員 坂井律子