国内放送事情

視聴者は地上デジタル放送をどう見ているのか

『放送研究と調査』7月号「2011年 テレビはどうなっているのか」にて、地上デジタル放送の現状と課題、さらに今後の展望を概観した。対応受信機の出荷状況は「順調」に推移しているが、視聴者の意識や視聴意欲・新サービスのあまねく普及・放送サービスの高度化・アナログテレビのデジタル移行など、さまざまな課題があることを確認した。

8月号では、視聴者の現実を詳細に分析した。その結果、既に地デジを視聴している層にも、これから視聴することが期待される層にも課題があることがわかった。前者では、対応受信機を所有しているにも関わらず、地上アナログを視聴している人々が少なくない。受信機の操作性や、番組の表示のされかたに問題があるゆえの現象だった。後者については、まず値段や操作性がデジタルテレビ購入の壁になっている。また高齢者や低所得層など一部の視聴者にとっても、地デジが遠い存在になっている。アナログ停波に向け地デジがあまねく普及するには、こうした課題を一つ一つ解決していく必要がある。

来春開始予定の1セグ放送についても、地デジと同様に、視聴者の見方は必ずしも楽観できない。同サービスにおいて何が鍵となるニーズなのか、視聴者側の事実を正しく認識する必要があろう。いっぽうデジタル録画機については、視聴者の側にあるニーズを実現する方向の端末であるため、基本的には普及する方向にあるようだ。よってタイムシフト視聴の影響に対する備えが、放送事業者には求められる。

いずれにしても、デジタル化で放送サービスの内容が多様化する以上に、視聴者の実態は多様化しているようだ。アナログ停波までの普及促進に際しては、送り手側の論理だけでは不十分で、受け手たる視聴者の現実にきちんと向き合う必要があると言えよう。

主任研究員 鈴木 祐司/研究員 増田 智子