番組研究

制作者研究<テレビの“青春時代”を駆け抜ける>

第3回 磯野恭子(山口放送)

~人々の“痛み”と“尊厳”を記録する~

1970年代後半に登場した山口放送の磯野恭子(いそのやすこ)は、国家や戦争に翻弄され、傷ついた市井の人々を見つめる優れたテレビドキュメンタリーを作り続け、「民放ドキュメンタリーの伝説」と呼ばれた。冤罪を訴える元受刑者を描いた『ある執念~開くか再審への道』(1976年民放連優秀賞)、小頭症の胎児性被ばく者と家族を見つめた『聞こえるよ母さんの声が~原爆の子・百合子』(1979年芸術祭大賞、ベルリン未来賞)、特攻で亡くなった学徒兵を見つめた『死者たちの遺言~回天に散った学徒兵の軌跡』(1984年芸術祭優秀賞)、強制連行された朝鮮人の過酷な労働の実態に迫った『チチの国・ハハの国~ある韓国人女性の帰国』(1986年 民放連最優秀賞)、開拓団で旧満州に渡ったが戦後日本に帰れず、苦難の道を歩んだ日本人女性たちの里帰りを追った『祖国へのはるかな旅~ある中国残留婦人の帰国』(1987年文化庁芸術作品賞)…。「磯野の作品は戦後日本の発展の裏側で歴史の重荷を背負って生きた人々の、声に出せなかった“痛み”と、過酷な境遇の中でも生き抜こうとする“尊厳”を記録している」と元日本テレビのディレクター、水島宏明(法政大教授)は言う。作品と本人へのインタビューから、磯野流ドキュメンタリーの本質に迫る。

法政大学教授 水島宏明