番組研究

制作者研究<テレビの“青春時代”を駆け抜ける>

第1回 吉野兼司(NHK)

~“歳月”を撮ったカメラマン~

テレビ制作者個人に焦点をあて、その個性的な番組群がつくられた内的なプロセスにせまる「制作者研究」。テレビ番組草創期(1950~60年代)の制作者を取り上げた昨年度に続き、今年度は、テレビが全国に普及し、放送内容も充実する「青春時代」、1970年代を中心に活躍した5人のドキュメンタリー番組制作者に迫る。

映画やラジオを経ずにテレビ番組の現場に入ったテレビ第2世代が登場するこの時代、制作者たちは「テレビ的な表現とは何か?」にこだわり、それまでの枠に囚われない自分流のドキュメンタリー番組に突き進み、実験精神とメッセージ性に富んだ番組が輩出された。

第1回は、撮影現場で対象への大胆な接近と執拗な観察で人間を描き、新たな表現の扉を開いて後輩たちに多大な影響を与えたNHKのカメラマン、吉野兼司(1935-85)に迫る。執筆者は若き日、ディレクターとして吉野と何度もロケをともにした桜井均(メディア研究部)。桜井は、吉野は高度経済成長時代を生きた人々の“歳月”を描いた「肖像画」作家であり、カメラと身体が一体となって相手の固有の時間や場所に入り込んで「見えない」現在をつかみとる、初めてのテレビ・カメラマンだったと評する。桜井は「日本の素顔」や「ある人生」の名作群に向き合い、吉野がファインダーを通して出会い、掘り下げていったものを見つめてゆく。

メディア研究部 桜井 均/七沢 潔