番組研究

アーカイブス研究の方法と可能性

公共圏における視線の移動と揺らぎ

「NHKアーカイブス」は現在ニュース365万8,000項目、番組57万6,000本を所蔵している。これが将来デジタル化されると、映像とそれに付随する情報はフィルムやテープのような媒体ではなく、デジタル信号に変換され、「人間の記憶」が極限にまで外部化される。そうなれば、技術的には誰でも、いつでも、どこからでもアクセスすることができるようになる。

デジタルは離散、アーカイブは集合を意味するので、デジタル・アーカイブスは放送局が本来持っている「離合集散」の特性に拍車をかけることになる。データ容量の大きな動画とそれらにまたがる情報(メタ・データ)が、現在の放送への再利用と一部の教材利用に加えて、研究利用に開かれるなら、その成果は次の放送ジャンルを開拓するための源になる。

本稿では、公共放送NHKがもっとも充実したコンテンツを有するジャンルから《公害・環境》という集合体(コーパス)を選び、NHKがどのようにこのテーマを扱い、時代の変遷とともに視点をどう移動してきたか、その間にどのような視点の揺らぎがあったかを、キーワード検索などを駆使して探査した。その結果分かったのは、キーワード《公害》がヒットするピークは1970年代の中盤までで、80年代からは徐々に下降に転ずる。それと踵を接するように《環境》キーワードのヒット数が上昇する。通常の番組研究では見えてこない「二つの山(70年代と90年代)と中間地帯(80年代)」という公共圏における変動を見出すことができた。なぜ、このような形状になったのかを、番組を実見しながら考察した。

研究員 桜井 均