番組研究

変容する幼児教育におけるメディアの利用

~2004年度NHK幼児向け放送利用状況調査を中心に~

日本では、テレビ放送開始3年後の1956年に、“幼児”を明確な対象とした2つの教育番組の定時放送が始まりました。今でこそ、幼児向け番組は世界各国で注目されていますが、テレビ初期の段階から、家庭視聴だけでなく、幼稚園・保育所での利用に向けても多様なジャンルの番組を放送してきた日本のような例は珍しいといえます。

幼稚園・保育所を対象とする「NHK幼児向け放送利用状況調査」では、放送番組の利用やメディアの普及状況を調べるだけでなく、幼児教育のニーズを掘り起こすための質問も設けて、新番組の開発に役立ててきました。

最近の調査では、(1)放送だけでなく、ビデオやパソコンなど多メディア化が進むメディア環境の変化に着目するほか、(2)幼児が家庭で接しているテレビやゲームなども含めて、メディア利用の教育的な効果や、懸念されるメディアの影響について、幼稚園や保育所がどのようにとらえているかを調べる設問も増やしています。

2004年度調査の結果からは、例えば、保育者自身のパソコン・インターネット利用が急速に増える一方、幼児自身がパソコンに触れることに対しては慎重な姿勢を示していることが明らかになりました。幼児期の直接体験を重視する教育要領や保育指針の影響、さらには、近年強まっている乳幼児期のテレビ、ビデオ、ゲーム等のメディアとの接触を否定的にとらえる社会的風潮も加わって、「教育的なねらいをもって幼児にテレビを見せること」に対する保育者の考え方にも消極的な傾向がうかがえます。

  1. 幼児向け教育番組の変遷と幼稚園・保育所における放送利用の特徴
  2. 幼稚園・保育所におけるビデオ利用の定着
  3. 幼児教育におけるパソコンの位置づけ
  4. 幼稚園・保育所におけるメディア観の変化と今後の課題

ラジオの時代も含めて学校放送・幼児向け放送は70年の歴史を重ねましたが、幼児向け教育番組が、それぞれ、幼児の現実社会での活動や生活を豊かにするねらいで制作されていることの意義やその教育効果について、改めて広く周知する必要性があると思われます。幼稚園や保育所での番組の集団視聴は、家庭では必ずしも十分とはいえない幼児期のメディア・リテラシーの育成にとって大きな役割を果たし得ることについて、合わせて考えることが重要な時期だといえます。

放送研究 主任研究員 小平 さち子