放送アーカイブ利活用促進に向けて(後編)

INAと「国家遺産」を支えるフランス法制度の変遷

公開:2024年5月1日

世界最大規模の放送(視聴覚)アーカイブ機関・INA(国立視聴覚研究所)の最新動向やフランスの法制度の変遷を報告し、日本の放送アーカイブ利活用促進に向けた示唆を抽出する、2回シリーズの論文の後編。INAの誕生から50年、その活動を支える放送法などの法整備の経緯をひもとき、「国家遺産」の保存と活用を担う高い公共性と、映像・音声フッテージの販売事業者という商業的な側面を両立させるため、立法者たちが時に強引な法改正も辞さなかったことを明らかにする。創設以降、INAは公共放送局と著作権の帰属をめぐって激しい”網引き”を続け、経営は悪化したが、2000年の放送法改正によって政府とCOM(目標手段契約)を締結し、使命と財源が安定化した。また、インターネット社会が到来し、アーカイブ利活用のための権利処理問題が深刻になると、2006年に「反証可能な許諾推定」の制度を導入し、INAは実演家の権利処理コストを大幅に低減できるようになった。不満を抱く実演家側と長期の法廷闘争に発展したが、欧州司法裁判所がINAを優遇するこの制度を認める決定を下したことで、決着した。総括として「公共財」「放送財」「商業財」という放送アーカイブの3つの側面を示し、公共財としての価値に着目しつつ、放送番組センターの役割の拡充も視野に、日本での法制度や環境の整備について考察する。

メディア研究部 大髙 崇

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