発掘ニュース

No.038

2014.12.26

ドキュメンタリー/教養

江戸川乱歩が撮影した未公開フィルムが番組に!

今から1年ほど前、ダンボール箱に入ったフィルムが届きました。その数およそ60本。

すべて、あの江戸川乱歩が自ら撮影したフィルムです!
今回は、このフィルムを手掛かりに制作された番組を、担当ディレクターの取材手記とともにご紹介します!

その番組とは、今月(12月)12日、中部7県【愛知・三重・岐阜・静岡・石川・富山・福井】で放送されたNHK名古屋放送局制作の『金とく』<金曜夜8時~>です。

オープニングに登場したのは「怪人二十面相」!番組の途中、色々なところに、この二十面相をはじめとする不思議なイメージ映像が現われてきます。

タイトルは「仮面の江戸川乱歩~生誕120年・近代との格闘~」。

ことし生誕120年の江戸川乱歩は、ご存知の通り日本のミステリー界の礎を築いた作家です。「近代化」のまっただ中、社会の変化に翻弄されながらミステリー作品を書き続けた乱歩の心の内を番組では探っていきます。

1894(明治27)年生まれの江戸川乱歩、本名は平井太郎です。三重・名張から3歳で名古屋へ、その後18歳まで暮らしたといいます。

13歳の時には早くも雑誌を作り、幼い少年が旅に出る冒険小説を書いていました。

乱歩がミステリー小説を書き始めるきっかけとなったのが「モルグ街の殺人」。世界最初のミステリー小説だそうです。著者の名前を見ると…“エドガー・アラン・ポオ”、そうです、乱歩のペンネームの由来でもあるんですね!

大学卒業後、職を転々とした乱歩は、29歳で作家デビュー。
乱歩が住んでいたのがこちら…

東京・西池袋に今も残されている「幻影城」と呼ばれる家です。

蔵の中には国内外から集められた膨大なミステリーの資料が今も保管されています。そうした中に今回のフィルムもありました。

乱歩自らが撮影した未公開フィルムの内容は4時間以上に及びます。

半世紀の時を経て補修されたフィルム。そこからは、乱歩が世の中の何を見つめ、どのように関心を抱き生きていたのかが読み解けます。

では、そのフィルムの映像をいくつかご覧いただきましょう!

まず乱歩自身の映像です。誰かに撮影してもらったのですね。この時はメガネをかけていません。

こちらは乱歩撮影の、上野で開かれた博覧会です。日本各地から工業製品が集められ、近代化の成果が多くの観客に披露されました。

なぜか綱渡りの映像も!

作品のアイデアを求めるかのように、乱歩は様々な場所に出かけ撮影を続けました。 進みゆく近代化の中で人々はどんな欲望を持ちどんな生活をしているのか?旅を重ね、社会の変化をつかもうとしていたようです。

しかしデビューして間もなく、大きな壁に直面します。理想とする論理的なトリックが生み出せなくなり、断筆を何度も口にするほど苦しみ続ける乱歩。こんな言葉を残しています。

「社会と交わっていくためには、私は本当の自分を隠して仮面をかぶって暮らすほかなかった。ところが仮面は、仮面としての判断力など持たないのである。そこで自分ではつまらないと思っても、編集者がやいのやいのと言ってくれる間は原稿稼ぎをしてやろう。売文業を大いにやろうと考えたわけである。」

二・二六事件があった1936(昭和11)年、大きな転機が訪れます。乱歩に少年誌から連載小説の依頼が舞い込んだのです。

乱歩が思いだしたのは、少年時代名古屋で見た1本の映画でした。フランス映画「ジゴマ」(1911年)、パリを舞台に怪盗ジゴマと探偵が対決する物語です。変装の達人ジゴマ、権力に屈することなく自由に生きる怪盗こそが、今人々に必要なヒーローではないかと考えた乱歩は“あの人物”を生み出します!

「怪人二十面相」の誕生です!
仮面を付けた二十面相。現金には手を付けず、貧しい人からは盗まない。人を傷つけたり殺したりしない。盗みを繰り返す一方でとにかく血を嫌いました。捕まえようとする名探偵・明智小五郎との対決をドキドキしながら読んだ皆さんも多いことと思います。

乱歩は“新たな仮面”を二十面相に託して世の中に放ったのです。

今回の番組を制作した、名古屋放送局・今氏源太(いまうじ げんた)ディレクターが取材手記を書いてくれました。

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 江戸川乱歩の撮影フィルムを発見したのは今からおよそ1年前、2013年の秋頃だったと思います。「三重県生まれ・名古屋育ち」「2014年は生誕120年」という2つが番組化のきっかけになりましたが、新しい何を描けばいいのか分からず、立教大学にある江戸川乱歩記念大衆文化研究センターを訪ねました。研究員の方に「乱歩について、何か新しい出来事や面白いことはないですかね?」という私の無茶な質問に「うーん…」とただ唸る状況。そうですか…、と諦めかけたそのとき!「そういえば乱歩の撮影したフィルムならありますよ」。文字を生業にする作家の撮った映像!?反射的に興味を覚えました。

 詳しく話を聞くと、今回発見した、というよりは元々乱歩邸に置かれていたものを保管していたのだというのです。ごく一部の映像はデジタル化されており既に公になっていたのですが、約60巻のフィルム(8ミリ、16ミリ、9.5ミリ)の大半はまだ未確認ということでした。半ばラッキーに“発掘した”というのが本音です。ただし、番組を盛り上げる大切な要素になることは間違いないと確信し、すぐにフィルムの中身を確認したいと思いました。

 NHKアーカイブスの協力のもと、没後49年ぶりに乱歩のフィルムが2巻を除いて見事復活!最初にデジタル化された映像を見たときの印象は「乱歩のホームビデオだ…」と思ったことを覚えています。乱歩自身も映っており、その表情はとてもリラックスしていて自然な様子が魅力的だと思った一方、このプライベートフィルムから何が見えてくるのか?と不安にもなりました。しかし、よく見つめると、近代化を象徴する博覧会の様子や映画の撮影現場、江戸川乱歩賞の様子など、時代の変化と乱歩をつなげる様子が残されていることに気づきました。

 また、フィルムには沢山の人々が映っています。家族、知人、作家仲間、編集者などなど。乱歩は好んで人々にカメラを向けていました。まだフィルムカメラが一般化する前の時代、人々は向けられたレンズに恥ずかしそうにしながら笑ったり、自然な雰囲気がありました。特に目立った人物は金田一耕助を生みだした作家・横溝正史です。二人は若い頃からの友人であり、若き日の二人が肩を組んで歩いている姿などは印象的です。乱歩が書きたい小説が書けず、断筆や放浪を繰り返している時に横溝が彼を追いかけ、小説を書くように説得したのは有名な話です。

 しかし、実はまだ映像の読み解きを完全に行えたわけではありません。まだまだ気づいていない人やコトが映り込んでいるかもしれず、引き続き取材を進めていきたいと考えています。言葉を武器に想像力の持つ世界を描き出した乱歩と、映像を通して映し出された現実社会。相反するような「乱歩」と「フィルム」がまるで惹きつけ合うように出会い、それが長い時を経て今も残っている驚きは、番組制作の大きな原動力となりました。

今氏ディレクター(中央)ちょっと怖いですが、
イメージシーンで演じてくれたダンサーの方と一緒に…

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時代と格闘しながら自らも“仮面”をかぶり、独自の小説を書き続けた江戸川乱歩。
その乱歩が仮面を託した「怪人二十面相」は29の作品に登場。さまざまな変装で人々を驚かせ、明智探偵との知恵比べを私たちに見せてくれました。乱歩は晩年まで二十面相シリーズを書き続けました。

乱歩と名古屋の近代との関わりを研究する小松史生子(こまつ しょうこ)准教授(金城大学文学部)は、番組で次のように締めくくっています。

「二十面相はどんなに明智小五郎に負けてもくじけないわけですよ。次もまたやる、また次もやる。しかも、だんだんマンネリ化する、変装も。同じことをする怪人二十 面相で、同じように負けていくんですけれど、彼はそれでもやり続ける。それが切ない。乱歩が追おうとした探偵小説の夢というものにかぶっていく。怪人二十面相になりたかったんじゃないんですか。」

中部地方での放送だったこの番組、新たに編集し直したうえで全国放送で見られる機会が出来そうです!お楽しみに!

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