運転手不足に「2024年問題」 どうなるバス業界
- 2024年01月19日
バス業界は慢性的な運転手不足に加えて運転手の労働時間などの規制が強化される「2024年問題」への対応にも迫られています。
弘前市のバス会社ではことしの春以降、路線の廃止や減便を考えざるを得ない状況に追い込まれています。
バス会社の苦悩と地域の足を確保するための模索を取材しました。
最高齢は72歳!? バス運転手の高齢化
津軽地方で路線バスを運行する「弘南バス」。
定年などで毎年15人から20人ほど運転手が減っている一方で、採用は進んでおらず、運転手不足に悩まされています。
運転手の高齢化も進んでいます。
300人近くいる運転手のうち、4割あまりが60代と70代。
最高齢の運転手は72歳です。
今回取材したのは、70歳の運転手、大沢章さんです。
運転手歴40年以上の大沢さん。
もともと貸切バス専門の運転手で、今もスクールバスの運転を中心に勤務していますが、人手不足のため、月に2回から3回ほど路線バスの運転も行っています。
若い人がもういなくて、入ってくる運転手もなかなかいないです。あともう2、3年は働き続けるつもりですが、体の調子を見ながら頑張って行くしかない。
大沢さんみたいに70歳を過ぎても働いてくれる人がいてありがたい。高齢の運転手にはあまり体に負担をかけないスクールバスだとか、時間が短い路線バスを運転してもらい、健康状態を確認しながら雇用していきたい。
運転手の採用が進まない理由について弘南バスの担当者は次のように分析しています。
朝早くて夜も遅く、お客様の命を預かっている仕事なので、非常に緊張感のある仕事。リスクも伴うので仕事のなり手がいないのが現実だ。給料や仕事の環境が改善されて、人気のある職業にならないかぎりは、この状況は続くと思う。
「2024年問題」対応で路線減便も
ただでさえ厳しい状況の中、この会社では「2024年問題」への対応にも追われています。
路線バス業界で大きな影響が出るとされているのが、勤務と勤務の間のインターバル、つまり休息時間の規制の強化です。
退勤から次の出勤までのインターバルは、いまは8時間以上となっていますが、今後は11時間を基本に最低9時間以上に延長されます。
例えば、午前6時に出勤する場合、夜7時までに退勤することになり、夜の運行に支障が出るといわれています。
弘南バスでは、11時間のインターバルをとった場合、相当数の運転手が今の勤務形態で働くことができなくなると試算しています。
その厳しい現状に対応しようと、来年春以降のダイヤ改正で▽早朝と深夜などの時間帯を中心に大幅な減便▽利用者の少ない路線などの廃止を検討している最中だということです。
今後、自治体に説明を行い、理解が得られればダイヤ改正の詳細を発表していきたいとしていくことにしています。
お客様が乗っている時間帯、利用している路線を削っていかないと、運転手が足りないという現状になってしまうので、非常に厳しい選択を取らざるを得ない。事業の継続すら厳しくなっていくという状況。
地域の足、どう守る?
路線バスのさらなる廃止や減便が見込まれる中、自治体も頭を悩ませています。
弘前市では、路線が廃止されても地域の足を確保しようと、すでに運行している「乗り合いタクシー」を拡大して対応する方針です。
運行を担うのは市から委託された地元のタクシー会社です。
主に廃止された路線と同じルートをバスのように決められた時刻に走り、乗り降りもかつての停留所で行っています。
運賃は150円から300円と、バスとほとんど変わりません。
赤字は市と国がタクシー会社に補助をしています。
2年前にバス路線が廃止された地域に住む高谷靖子さん(60)です。
通院のために週に3回乗り合いタクシーを利用しています。
高谷さんの病院への行き帰りに密着してみると、乗り合いタクシーの使い勝手の課題も見えてきました。
まず、病院への行きですが、高谷さんは、乗り合いタクシーではなく病院が運行するシャトルバスの停留所まで20分ほどの道のりを歩いています。
高谷さんの地域の乗り合いタクシーは決まった時刻に予約がある場合に運行されます。高谷さんが病院に向かう時間に運行予定がないためです。
病気で骨が弱くなっているから足腰も弱くて、何回か休憩しながら停留所まで歩いています。これからの雪の季節は滑って転んだりしたら骨折する危険性が高いので怖いです。
一方、高谷さんは病院からの帰りは、乗り合いタクシーを利用しています。
すべての道のりではなく、病院から乗り合いタクシーの停留所までは、バスを利用しています。
ただ、バスから乗り合いタクシーへの乗り継ぎ時間は1時間以上あります。
高谷さんは、停留所近くのスーパーなどで買い物をして過ごしているということです。
バスもない、タクシーもないとなれば困ってしまうので、乗り合いタクシーがあるのはとても助かる。ただ、適した便がなくて朝は使えないこともあるので、交通弱者のために便数や時間を考えるなど工夫をしてほしい。
弘前市には多くの路線では予約が必要なことや、停留所以外で乗り降りできないことなど使い勝手に関する意見も寄せられているということです。
タクシー業界も人手不足
弘前市はさらにバス路線が廃止されれば、この仕組みを拡充させて対応したいとしていますが、タクシー業界も人手不足に直面しているため、どこまで対応できるか見通せないのが実情です。
公共交通を維持していくためには、今ある輸送手段を最大限使いつつも、垣根を越えて、地域の足を守るためのアイデア出しをしていきたい。どの分野においても人手不足というのは認識している。
ただ、安全面で考えるとやはりプロのドライバーであるタクシー事業者にお願いした方が、安全安心な運行が出来るのでさまざまな交通手段の選択肢の中では最優先と考えている。
地域の足をどう守るか 専門家は
公共交通に詳しい専門家は、今ある公共交通だけでなく、地域の輸送手段を最大限生かすことが重要だと指摘します。
病院のバスやスクールバスなど、地域の資源をどう使っていくのかということも、みんなで考えるべき。そのためにも新しい交通を試し、方向性を議論する場をうまく機能させないといけない。
地域の足をいかに守っていくか、どれほどコストをかけるべきかなど様々な業界、団体などが参加して議論を一層深めていく必要があると感じました。今後も、地域交通の動向を注視していきたいと思います。