全国で相次ぐタイヤ脱落事故 増加の背景と対策は
- 2023年12月28日
私たちの生活に欠かせない自動車。しかし、走行中にタイヤが外れ、近くにいた人に直撃するなどして死傷する事故が全国で相次いでいます。
八戸市で起きた事故をきっかけに、脱落の背景には何が考えられるのか、ふだん運転する私たちも何に気をつけるべきなのか、取材しました。
外れたタイヤが凶器に
今月1日、岩手県を出発した運送会社の大型トラックは八戸自動車道の下り線を走っていました。すると突然、左後輪のタイヤが脱落しました。
しかし運転手は気づかずそのまま2キロあまりを走行。その間に2つめのタイヤが外れ、道路脇で作業をしていた男性に直撃したのです。男性は病院に運ばれましたが死亡。別の作業員も軽いけがをしました。
警察は、今月6日にトラックを所有する会社を過失運転致死傷の疑いで捜索。
運転前の点検が不十分でタイヤが脱落したとみて捜査を進めています。
脱落事故の9割以上が左後輪に集中
タイヤが脱落するこうした事故は、全国で起きています。国土交通省のまとめによると、2022年度、全国で発生した大型車のタイヤ脱落事故は140件。
2004年から2011年まで年々減っていましたがこの年を境に増加に転じ、昨年度、過去最多となりました。
この140件のうち132件、実に94%が八戸市の事故と同じ左後輪に集中しています。ほかの箇所に比べて、左後輪がここまで脱落しやすいのはなぜなのか。その理由の1つと考えられているのが、「左側通行」という日本の道路事情です。
左折する時のタイヤの軌道は、右折と比べてより急な角度で曲がります。
そのため、左折する際には、左後輪がコンパスの軸のようになり、大きな負荷がかかってしまうことが事故の原因の1つと考えられると専門家は指摘しています。
交通事故鑑定人 熊谷宗徳さん
「左折するときに、低速で左後輪があまり回転しない状態で曲がるので、そのときに左後輪に大きな負荷がゆっくりとかかってしまう。荷物を積んでいたらさらに、ボルトやナットにも負荷がかかって緩みやすくなってしまうのではないか」
タイヤの規格変更で・・・
しかし、疑問は残ります。なぜ2011年から大型車のタイヤ脱落事故が増加し始めたのか。実は日本では2010年から、大型トラックのホイールの規格が、これまでの日本独自の「JIS」という規格から国際標準の「ISO」という規格に変更されています。規格の変更でどのような違いがあるのか、県内の運送会社に話を聞きました。
「JIS」のナットは“反時計回り”、「ISO」は“時計回り”です。矢印の方向に車が進むとき、タイヤは反時計回りになるため、JISのナットが締まる向きとなりますが、ISOの場合はナットが緩む向きとなってしまいます。
みやび運輸社長
「進行方向が緩む方向なので、特に車体の左側の方が緩みやすい。ISOの方が、運転していて、緩んでいないかという不安がどうしてもある。とにかく日々の点検と増し締めを徹底していかなければ、事故を防げない」
“点検と整備が行われれば安全性に違いはない”
規格の変更と脱落事故の増加の関連を示すデータはなく、国土交通省は、JISとISOの規格について「点検と整備が行われれば安全性に違いはない」としています。
一方、交通事故鑑定士の熊谷さんの調査では令和2年度に起きた大型車のタイヤ脱落事故のうち、実に約9割がISOの規格だったということで、「この事実を直視すべきではないか」と話していました。
タイヤ脱落事故を防ぐために
ノーマルタイヤ、冬用タイヤと年に2度は交換する私たちにとっても、タイヤの脱落は他人ごとではありません。ではどうすれば防ぐことができるのか。警察は次のようなことを呼びかけています。
- タイヤを自分で取り付けた場合、確実に締め付けられているか工具で確認する。
- 取り付けを自分で行っていない場合でもナットにさびや損傷がないか目視で確認する。
- タイヤを交換してから50~100キロ程度走ると、ナットが緩みやすくなるため、改めてきつく締め直す“増し締め”を行う。
大半の乗用車のホイールはトラックのISO規格と同じで、ナットが右回しのため、運転する私たちも、左側、つまり歩道側の車輪が外れないよう注意することが必要です。雪国での青森では冬用タイヤに交換して間もないこの時期だからこそ、しっかり装着できているか、この機会にもう一度見直したいと思います。