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柳と風 Beed-o Baad / Willow and Wind 柳と風
1999年/イラン・日本/カラー/85分

●2000年 バンコク映画祭グランプリ
【 物 語 】
イラン北部の、1年じゅう雨が降る村は今日も雨。小学校の教室には、割れた窓ガラスから雨が吹きこんでくる。雨の降らない地方から越してきた少年レザーは、授業中、生まれて初めての雨に見とれ、心ここにあらず。根負けした先生は外に出て思う存分雨を楽しむよう言う。やはり教室の外にいる少年クーチュキを教頭が叱責している。2週間前に窓ガラスを割ったのがこの少年で、弁償するまで授業を受けられないのだ。とうとう、明朝までにガラスを入れなければ学校に来なくてよしと言い渡された。クーチュキは何度も父親にガラスを買うよう頼んだのだが、父親はお金がないのか応じてくれないのだ。だが帰り道、転校生のレザーが自分の父親から難なくガラス代を借りてくれる。クーチュキはひとりガラス屋に行くが、サイズがわからなくなる。親切なガラス屋のおじさんのおかげでどうにかガラスを手に入れたが、外は風が吹きすさび、柳が大きく揺れている。ガラス板を抱えては歩くのも難儀だ。やっとの思いで学校に辿りついたクーチュキ。でも自分の背丈よりもずっと上の窓にどうやってガラスを嵌めたらいいのか……。クーチュキの多難はどこまでも続く。

【 解 説 】
『柳と風』の主旋律は、教室の窓を割ってしまった少年が「今日中になおせ」と教師からきつく言い渡され、それを成し遂げようとするシンプルな物語である。大人の無理解や非協力的な態度、子どもゆえの「お金がない。交通手段が限られている。段取りが悪い。背が届かない」といったハンデから、その過程にさまざまな困難が待ち受けているのは、子どもを主人公にしたイラン映画ではおなじみのパターンだ。モハメド・アリ・タレビ監督の『ザ・ブーツ』『チックタック』『神さまへの贈り物』といったアジアフォーカス・福岡映画祭やイラン映画祭で紹介された作品にも、いずれもそういったハラハラドキドキの要素は含まれている。
『柳と風』もその流れからはずれてはいない。とはいえ冒頭10分あまりも、主人公クーチュキが姿をあらわさないというのは定石破りの構成だ。乾燥した地域からやってきた転校生が教室で紹介され、割れた窓から振り込む雨をめずらしそうに眺める。それゆえ教師は窓の修理をせかすつもりになるのだし、この転校生が主人公を助ける最初の人物なのだが、雨に打たれながら好奇心で顔を輝かせるその姿は、物語進行上の役割を超え、別のストーリーを予感させるほどだ。それは、アッバス・キアロスタミが書いたこの脚本のほんとうの主人公が雨と風といってもいいからだろう。劇中、ラストまでは音楽は使われないのも、雨と風の音を聴かせたいという思いからだろう。
風の形がさまざまに描かれる。少年たちが訪ねていく発電所では白い風車(?)が、まだ穏やかに回っていたのに、ガラス屋にサイズを確認され不安を増していく少年の耳に風の音はどんどん大きくなり、窓の外では木々が恐ろしいほどに揺れている。さらに、ガラス運搬のためのすべりどめに少年のもっていた本が使われる。風は容赦なくページをめくり、かえって少年の視界を遮る。少年の手に余るガラスは風であおられ、再び雨が降り出せば葉っぱがはりつく。
やや甘すぎた『チックタック』や『神さまへの贈り物』にくらべて『柳と風』は残酷な作品だ。悲劇の瞬間も少年の顔と音だけで知らされる。砕け散る様をみることで得られるカタルシスがないから、それは一層胸に痛い。ぼう然と少年が佇む学校の廊下に、風はさらに容赦なく吹き込んでくる。ラストシーンでも風はやまない。けれど、夕焼け空の美しさ、その空を背景にしたシルエットが示す少年の行動に「希望」というにはささやかだが、「期待」が用意されている。キアロスタミの『そして人生はつづく』『オリーブの林を抜けて』などのラストシーンと呼応するような。
撮影には、前述の3作品でも監督と組んでいるファルハード・サバー。キアロスタミ監督の『友だちのうちはどこ?』のキャメラマンでもある。録音にも『そして人生はつづく』などで知られるチャンギス・サイヤッドが参加している。
松 田 広 子

モハメド・アリ・タレビ監督からのメッセージ
『柳と風』は、全てのものがいつかは終わるように、ついに完成した。しかし、その過程で築いた友情は、私の中に深く刻まれた。脚本のキアロスタミ監督、撮影のサバー、プロデューサーのショジャノーリとダードグ、素人の俳優たち、ラビエ村の皆さん、オリーブの林を吹き抜けた秋の冷たい風の思い出……それらがすべて私の中に今でも残っている。森の奥深く、鳥の啼き声しか聞こえなかった草原の静寂の中から、キアロスタミ氏に携帯で電話をし、映画のシーンの様子や、自然の美しさ、そして自分の気持ちを話した。彼は常に私の話しに耳を傾け、また、いつも気持ち良く話しをしてくれた。そして、『柳と風』を創る私を励まし、助け続けてくれた。この映画を撮るために、私達は遠い村まで旅をした。自然の中の詩的な人生を体験し、このような新鮮な体験を皆さんに伝えられることは、とても大切なことだと思った。人間は一瞬でもいい、風と雨の間を歩けたら、素晴らしいと思った。
Beed-o Baad
モハメド・アリ・タレビ監督

モハメド・アリ・タレビ監督
1958年テヘラン生まれ。10歳のとき、アッバス・キアロスタミ監督がその映画製作部とスタジオを創設した児童青少年知育協会に入り、絵画、演劇、小説、音楽そして映画製作を学ぶ。その後、演劇学部で映画テレビ演出を専攻。この大学時代に10本以上の児童向け短編映画を製作する。その後テレビ局に入り、50本以上の短編やドキュメンタリーを制作。

1984年───"City of the Mice"
1985年───"The Finishing Line"
1986年───"The Wilderness"
1987〜89年─"The Primrose"(シリーズ)
1992年───"The Boots"
1994年───"Tick Tack"
1998年───"Sack of Rice"

スタッフ:
監督/脚本:モハメド・アリ・タレビ
脚 本:アッバス・キアロスタミ
製 作:モハマド・メヘディ・ダードグ、上田 信(NHK)
製作補:飯野恵子(NHKエンタープライズ21)
撮 影:ファルハード・サバー
編 集:ソホラーブ・ミーレセパスィ

キャスト:
クーチュキ・プール:ハディ・アリプール
レザー・アルダカーニ:アミール・ジャンファダ


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