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1999年/オーストラリア・日本/カラー/80分
●2000年 シドニー映画祭
●2000年 トロント国際映画祭
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【 物 語 】
ブリスベンの町外れにある宅配ピザ店。月曜の夜。ここで働く若者6人それぞれの一夜の物語が、時系列をシャッフルした形で進み、ジグソー・パズルを少しずつ完成させるかのように徐々に前後関係が明らかになっていく。まずはドム。閉店した店内にひとりでいる彼は、ゴミを店内じゅうにぶちまけ、電話で悪態をつく。次はその夜の早い時間、ミーシャの話。童貞のミーシャは配達先のアイドルと「やった」とつい見栄で嘘をつく。ロバートとエリンは大の仲良しなのにロバートは親友以上になろうとしない。実はゲイだからなのだ。店主のケイティーはドムと関係を持っているが、この夜、ミーシャに現場を見られ、そのあとみんなが2人の営みをジョークにしているのを目撃してしまう。その場にいたドム自身も一緒になって大笑いしていたことにケイティーは傷つき、別れと解雇をドムに告げる。冒頭のドムの怒りの理由がここで明らかになる。元模範的従業員で現在ドラッグ中毒のステイシーは今夜ひさしぶりに出勤。だが配達先で金を盗み、ハメを外しに繰り出したあげく、深夜、衝動的に川に飛び込んでしまう。偶然その場に居合わせたドムがすかさず助けに川に飛び込む。やがて夜が明けはじめ、川岸の芝生を潤すスプリンクラーが回り始める……。
【 解 説 】
オーストラリアの大都市ブリズベンを取り巻く郊外の一角。そこには、幹線道路が走り、小奇麗なマンションや管理の行き届いた公園があり、主人公である6人の若者たちは宅配ピザ店で働いている。彼らは、消費社会が生みだす豊かではあるが、画一的なこの世界のなかで、それぞれにジレンマを抱え、孤立し、傷つき、出口を探し求める。
『退屈なオリーブたち』では、そんなわれわれにとっても身近な題材が、実にユニークなスタイルで掘り下げられていく。この映画に描かれるのは、6人の若者たちの一夜の物語だが、その物語は時間が前後するかたちで巧みに組み合わされている。観客はそのパズルを解く作業を通して、ドラマのなかに引き込まれていく。
そのドラマから見えてくる人間関係は、彼らがいかに狭いコミュニティのなかを行き来しているのかを物語っている。この映画の原題である“City Loop”には環状線という意味があるが、まさに彼らは同じところをぐるぐる回るだけで、世界は閉じられている。そしてその世界のなかで、彼らがささやかな心の支えとしているのは、ドムとケイティーの関係やロバートとエリンの覗き行為のように、仲間の誰かと密かに特別な時間や感情を共有しているという気持ちだ。
この心の支えは、集団と個人の微妙なバランスの上に成り立っているが、この映画のパズルはそれがどのように崩れていくのかを描きだしていく。ドムとケイティーの関係をミーシャが目撃してしまったことが発端となって、集団のなかでコンプレックスを持つミーシャはアイドルとの関係をでっち上げ、自分たちの関係を笑いの種にするドムにケイティーは傷つく。ロバートはゲイであることを知られたくないという気持ちがあり、集団のなかではことさらエリンと親しくするが、皮肉なことにエリンはふたりの秘密である覗きによって真実を知る。そんなふうにしてこの映画では、いつもと変わらないはずの一夜が、主人公それぞれにとって特別な一夜に変わっていく。
その特別な一夜を締めくくるのが、ドムとステイシーのカップルであることは興味深い。彼らが身勝手で性格的に破綻しているのは、内輪の関係、さらには閉塞的で現実感が希薄な世界に反発を感じているからでもある。そんなふたりは、銃で撃たれそうになったり、川に飛び込むといった体験を経て、呪縛を解かれたように心を開き合うのである。 |
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大 場 正 明
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ベリンダ・チャイコ監督からのメッセージ
通常とはちょっと違う、オルタナティブなストーリー展開の物語に私はいつも惹かれてきました。ですからこの『退屈なオリーブたち』の脚本を初めて読んだとき、即座に監督したいと思ったのです。この映画は観客にとってはまるでパズルをひとつひとつ見つけていくゲームのように見えることでしょう。このユニークな構成ゆえに、私たちスタッフはストーリーの伝え方や、ストーリー自体が生み出す意味について考えさせられました。といっても、これは説教じみた映画ではありません。ユーモアに溢れ、時に馬鹿馬鹿しく、そしてしみじみと哀しくもあります。この作品は、経験のあまりない若い俳優たちと一緒に仕事する機会を私に与えてくれ、同時に、とても熟練したスタッフと働く機会も与えてくれました。特に撮影監督のジョセフ・デミアンは彼自身監督としての経験を持ち、多大な影響を私に与えてくれました。 |
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ベリンダ・チャイコ監督
クィーンズランド州コフス・ハーバー出身。国立オーストラリア映画学校卒業後、短編映画を製作するかたわら、長編映画の脚本編集も手がけ、短編映画の旗手として、また脚本編集者としても、映画業界で名をなしている。『退屈なオリーブたち』は初めての長編映画監督作品。また、短編小説家としても活躍していて、時には編集者、ジャーナリストとして、シドニー・モーニング・ヘラルド紙などに寄稿している。現在シドニー在住。本作のプロダクション中に女児を出産し、直後から撮影に入った。
スタッフ:
監 督:ベリンダ・チャイコ
製 作:ブルース・レッドマン、上田 信(NHK)
製作補:飯野恵子(NHKエンタープライズ21)
原案/脚本:スティーブン・デイビス
撮 影:ジョセフ・デミアン
美 術:ルイジ・ピットリーノ
衣 装:アレックス・バートン
キャスト:
ドム : サリバン・ステイプルトン
ミーシャ:ライアン・ジョンソン
ケイティー:ヘイリー・マッケレニー
エリン:ケリー・ジョーンズ
ロバート:ブレンダン・コーウェル
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