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NHK ASIAN FILM FESTIVAL NHKアジア・フィルム・フェスティバル
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欲望の仮面 Mukundo / Mask of Desire 欲望の仮面
1999年/ネパール・日本/カラー/105分

●2000年 イェテボリ映画祭
●2000年 サンフランシスコ国際映画祭
●2000年 ヴァンクーヴァー国際映画祭
●2001年 アカデミー賞ネパール代表
【 物 語 】
カトマンズに暮らす若夫婦。夫のディパクは夜間勤務の守衛。貞淑で信心深い妻サラスウォティと2人の娘とともにつつましいが愛情に溢れた暮らしをしている。夫婦の唯一の心配事はまだ息子がいないこと。ある日、世捨て人のサドゥに、男の子を授かりたければトリプラ女神のところへ祈りに行けと言われたサラスウォティは、半信半疑で従う。すると間もなく身ごもり、男の子を出産する。幸せを噛みしめる夫婦だったが、赤ん坊は生後数週間で死んでしまう。悲しみのあまり臥せったサラスウォティは、手伝いに来てくれた姑との仲もうまくいかなくなり、家庭内には一転して暗雲がたちこめる。そんな時、サラスウォティはトリプラ女神の魂の仲介者である祈祷師=ジャアクリニに会えとサドゥに言われたことを思い出す。ジャアクリニであるギタという女性は、若い頃、精神を病んだ夫の自殺によって神経衰弱になり、それがきっかけとなってジャアクリニになったのだった。ギタは若く精悍なディパクに心惹かれてしまう。ディパクに接近していくギタに、サラスウォティの心はふたたび乱れ、ついにある決心をする。もう1度、ギタ/ジャアクリニに治療の儀式をしてもらうのだ。だが儀式は2人の女性の争いに発展し……。

【 解 説 】
シャーマニズムはアジアの国々では今なお人々の生活に根づいており、社会のなかで大きな役割を占めている。ネパールにも伝統的な宗教心に培われたジャアクリ(女性はジャアクリニ)と呼ばれる祈祷師たちがいる。彼らは生来の資質に加えて修行を積むことで世界を統治する見えざる霊力と交感の治療に当たっている。『欲望の仮面』は、そんなネパールの伝統的な信仰心を背景に、現代的な生活を営む若い夫婦とジャアクリニとの心の葛藤を描いている。
前半は、夫婦や子供、嫁と姑といった現代ネパールの家族生活が主に描かれる。ネパールにおいても、伝統に根ざした文化や生活様式は、時代のうねりによって大きく変化し、伝統的なものの価値や意味は薄らいでいる。宗教も、合理的な思考の浸透によって、古来からの儀式や迷信を含めた信仰心が形骸化しているといわれる。そのため、ネパール社会の到るところで古きものと新しきものとの対立や衝突といった葛藤が見られ、それが本作のひとつの大きなテーマになっている。
主人公夫婦とジャアクリニの関係がドラマの中心として展開する後半は、患者と祈祷師の関係に、夫をめぐる妻とジャアクリニの女性どうしの愛情や嫉妬といった欲望が重なり、いわゆる三角関係のドラマとなる。だが、ラストで取りつかれたように相手を攻撃するジャアクリニと妻の葛藤が、悪霊のためなのか、女としての愛や嫉妬のためなのか、判然としないように、ふたりの女性の葛藤には伝統と現代の対立やジャアクリニの個人的なトラウマなどが絡み、ストーリーやテーマを膨らませて興味深い作品になっている。
ツェリン・リタール・シェルパ監督は、インドのデリーで映画製作を学び、1994年からドキュメンタリー映画を撮ってきたネパールを代表する若手監督。わが国では1997年の『祈祷師』がすでに紹介されているが、このチベットの亡命祈祷師を描いたドキュメンタリー映画は、伝統と現代、古きものと新しきもの、父と子などの対立を背景にした現代チベット社会の変化に焦点を当て、明らかに本作とつながっている。本作は監督が初めて手がけた劇映画であるが、ドキュメンタリー映画で培われた際だった映像感覚と手堅い演出力には今後を期待される才能の輝きを見ることができる。
村 山 匡 一 郎

ツェリン・リタール・シェルパ監督からのメッセージ
私は、ネパール人が数多く行なう宗教的儀式や信仰に疑問を抱いている。なぜなら、一般的にネパール人はただ儀式をこなしているだけで、もはや誰もその本来の意味を考えていない。完全に形骸化していると思えるからだ。それでも外国からネパールに来る人たちには、ネパールはまだエキゾチックでロマンチックな国として映っている。そして観光客のために形骸化した儀式が延々と行なわれる事態になっているのである。私個人としては、宗教や信仰は(それ自体は純粋なものであっても)非常に観念的なものであるため、これを悪用しようとする者たちの餌食にされやすいと考えている。ネパールだけでなく、世界のいたるところで宗教/信仰の名のもとに不正行為や暴力が平気で行なわれている。『欲望の仮面』では、盲目的な信仰や迷信の危険性に警鐘を鳴らし、なおかつ宗教の真摯な役割には門を閉ざさないという視点を表したかったのだ。
Mukundo
ツェリン・リタール・シェルパ監督

ツェリン・リタール・シェルパ監督
1968年生まれ。1992年インドのデリーにあるジャマイア・ミリア・イスラミアで映画制作を学ぶ。1994年チベット国外亡命政府のあるダルマサラでダライ・ラマを撮影する。ドキュメンタリー『拷問の涙』を監督。1996年ドキュメンタリー『美徳と優しさの雨』を監督。1997年ドキュメンタリー『祈祷師』を監督。ツェリン・リタール・シェルパ監督のドキュメンタリー作品は、ライプチヒ映画祭、香港国際映画祭、アジアフォーカス・福岡映画祭等で上映された。1997年、カトマンズで開催された南アジア・ドキュメンタリー映画祭でベスト・フィルム賞受賞。『欲望の仮面』はリタール監督の初の劇映画作品。

スタッフ:
監督/製作/原案/脚本:ツェリン・リタール・シェルパ
製 作:上田 信(NHK)
製作補:飯野恵子(NHKエンタープライズ21)
プロデューサー:ロプサン・ツルトリム、アン・クサン・シェルパ、サンパ・ラマ
原案/脚本:ケサン・ツェテン
撮 影:ランジャン・パリット
美 術:サントス・ポウデル、ラジェス・シュレスタ
音 楽:ニュー・バジュラチャーリヤ

キャスト:
サラスウォティ : ガウリ・マラ
ギタ:ミティラ・シャルマ
ディパク:ラタン・スベディ
導師:ニルマル・ピャクレル
母:ラマ・タパリア


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