NHKスペシャル

シリーズ TOKYOアスリート 第5回
陸上リレー 最速の“絆”

多田修平,白石黄良々,桐生祥秀,サニブラウン・ハキーム

東京オリンピックでの金メダル獲得が期待される陸上4×100mリレー。桐生祥秀・サニブラウン・小池祐貴と3人の9秒台選手を擁し、「史上最強」とも言われる日本。しかし個の成長は、日本伝統の「絆のバトン」にヒビを入れるリスクも招いた。5月の世界リレーではまさかのバトンミスで失格。個人でも100mのファイナリストが視野に入るなか満足のいくリレー練習を行う事が難しくなっていたのだ。前哨戦となる10月の世界選手権に向けてチームをいかに立て直すのか。キーマンの土江コーチに密着。異例とも言える海外での「部分練習」の様子を取材した。また高速バトンパスを体感する為に代表選手にVRカメラを装着し、時速40キロ近いスピードで行われるバトンパスの神髄を体感。さらにベールに包まれたサニブラウンのアメリカでの成長の秘密も追った。
スタジオには桐生祥秀ほか代表メンバーを招きウッチャンナンチャンが、日本代表が目指す「進化形アンダーハンドパス」の秘密やリレーメンバーの個性あふれる素顔に迫る。

放送を終えて

個の走力では劣る日本が、なぜリレーになると世界のトップを争うことができるのかー。その秘密を探りたいと取材をスタートさせました。時速40キロで疾走する中、わずか2歩で受け渡す“神技”バトンパス。そして、他国と比べ圧倒的な速さを誇るバトンゾーンのタイム。日本が長年積み上げてきた「世界一のバトンパス」を随所に知ることができました。一方、取材を通して一番印象に残ったのは、強くなったことで生まれ始めた「チームの苦悩」でした。近年、日本短距離界は9秒台の選手が複数出るなど、世界レベルに大きく近づいています。個の走力が上がれば、リレーも必ず速くなる。取材を始める前はそう思っていました。しかし、一筋縄ではいきません。個人でも世界が見え始めた選手たちは個人のレースや練習を優先し、リレーの練習に集まらなかったのです。その選手たちをコーディネートし、日本伝統のバトンパスの火を消さないようにと奔走する土江コーチには頭が下がる思いでした。番組を通して、チームの信頼関係を作る苦悩の日々が伝わっていれば幸いです。
2020年8月7日。400メートルリレーの決勝が、新しく完成した国立競技場で行われます。皆の思いを1つのバトンに乗せて。そんな選手たちの“人生をかける日々”を今後も取材していきたいと思っています。

ディレクター 伊藤悠一