ページの本文へ

  1. 首都圏ナビ
  2. かながわ情報羅針盤
  3. 無断改変 ネコのオブジェが渋谷で復活!

無断改変 ネコのオブジェが渋谷で復活!

  • 2024年01月05日

招き猫をモチーフに、赤と白のデザインだったネコのオブジェ。キョトンとした表情が特徴でしたが、無断で黒く改変されて“別モノ”になってしまいました。“わが子”を元に戻そうと、作者が7か月かけて修復し、復活した姿がお披露目されました。

赤と白だったのに、無断で黒い姿に…

このオブジェは、4年前、現代美術作家の吉田朗さんが制作しました。
福を呼ぶとされる招き猫をモチーフにしていて、赤と白が基調に、キョトンとした表情が特徴です。

渋谷区内に新たに開業した複合施設に設置するために、大手不動産会社が制作を依頼したものです。
渋谷のシンボル・ハチ公像のように広く愛される存在になってほしいという思いからネコの姿にすることにし、外国人観光客を意識して日本らしさをイメージした赤と白を基調にデザインされました。

前    →   後

施設の最上階のレストランに設置されていましたが、おととしの夏ごろ、突然、無断で黒を基調にしたデザインに変えられてしまいました。
レストランの運営事業者が変わって店の内装を変更したときに、オブジェも変更したといいます。

絶句した作者が施設側に抗議

SNSを通じて、自分の作品がまったく違う姿になったことを知った吉田さん。
何が起きたのか分からず、ただただ、がく然としたといいます。
オブジェは、制作を依頼した大手不動産会社が所有していますが、設置した後も無断で内容を変えられない契約になっていたからです。
吉田さんは、「作者に無断で姿を変えるのは著作権の侵害にあたる」と、施設側に抗議しました。

作者の吉田朗さん
「なぜこんなことをするのかショックです。思いやコンセプトを含めて全く違うものにされて
大きく踏みにじられました。美術作品に対する最低限の理解と敬意があればここまでの事態には
ならなかったはずです」

オブジェを所有していた三井不動産は、吉田さんに謝罪しました。
三井不動産は「店舗の運営事業者から、アートを含めた店舗全体の内装変更の依頼を受けた際に、著作権に関する確認が不十分でした。アーティストへの配慮を欠く対応を行ったことを深くお詫び申し上げます」とコメントしています。 

“わが子”を元の姿に戻したい…7か月かけて修復

去年4月 はがす作業をする吉田さん

オブジェは黒いままの姿で、去年4月に相模原市内のアトリエに戻り、吉田さんは予定していた個展や
仕事の依頼を断って1人で修復を進めました。
当時、吉田さんは、本来の赤と白の色味とラッピングの黒がまだらのようになった修復中のオブジェを前に、先が見通せない苦しい心境を語りました。 

吉田朗さん
「強い接着剤でラッピングされているので、元の下地が離れないよう、少しずつ慎重にはがしています。早く元の姿に戻したいが、これだけ大きな作品だし、やったことのない作業なので、どのくらい時間がかかるかまったくわかりません」

7か月かかった修復作業のなかで大変だったと感じたのは、オブジェの表面についた傷の修復でした。
ラッピングをはがす作業だけで5か月もかかりましたが、はがしてみると、カッターの傷が複数見つかりました。
黒いラッピングをカッターで切り、オブジェの曲線に沿って貼る時についたとみられるということです。
吉田さんは、傷を修復するため、表面を磨いてなめらかにしたり、赤と白の下地を塗り直したあと、つや出しするための塗装を全体にほどこしたりしました。

支えたのはSNSの応援の声

「なぜこんな事態になったのだろう。元に戻せるだろうか…」と弱気になることもありましたが、SNSの応援の声が励みになったといいます。 

渋谷の地でのお披露目を10日後に控えた去年のクリスマス・イブ、吉田さんはアトリエでつややかに光るオブジェを丁寧に磨いていました。

吉田朗さん
「修復は苦しい作業だったが、『きょうはここまで直った』とインターネットに掲載すると多くの応援のことばが届き、大きな励みになった。応援がなければ精神的にもたなかったと思う」

ついに復活!再び渋谷の地へ

7か月かけて、黒くラッピングされたテープをはがすなどの修復作業を終えました。
吉田さんは展示する場所に特にこだわりました。
渋谷に設置することを念頭に制作され、「渋谷」という文字が背中にデザインされているオブジェなだけに、渋谷の地で再びお披露目したいと考えていました。
そして、2024年の1月3日、展示場所として決まった「渋谷ヒカリエ」のギャラリーで、ついにお披露目されました。
集まった人たちは再び渋谷の地に戻った作品をじっくりみたり、写真に撮ったりしていました。

都内から訪れた30代の女性
「元の姿に戻ってよかったと思う。かわいくて感動しました」

復活の象徴として末永く渋谷の地で愛してほしい

展示は1月9日までですが、吉田さんは長く渋谷の地に設置したいと考えていて、理解してくれる企業や団体などが見つかれば寄贈したいと考えています。

吉田朗さん
「改変されて大変な目にあったが『復活の象徴』という御利益のついた作品になったのでぜひ見に来てほしいし、著作権やアートについて知ってもらう事例になればいいと思う」

  • 岡部 咲

    横浜放送局

    岡部 咲

    2011年(平成23年)入局。宇都宮局、首都圏局などを経て、去年8月から横浜局。ネコ派です。

ページトップに戻る