一人一人の個性に気づき、寄り添って向き合い続けることで、注目されるアート作品の創造につなげている福祉施設が埼玉県川口市にあります。社会とのつながりを生む創作活動の場を取材しました。
川口市にあるこちらのギャラリー。中に展示されている作品は、国内外の美術館などで高く評価されています。
これらの作品が生まれているのは、併設されているアトリエ。障害のある人が日中過ごす福祉施設です。
ここでは15人が1日4時間創作を行います。
この施設が目指すのは、一人一人が生き生きとこの社会で生きること。スタッフは創作を無理強いせず、意欲が湧く環境を整えるため独自の支援を行っています。
柴田鋭一さんです。自閉スペクトラム症で、納得いくまで次の行動に移ることができず、同じ行動を何度も繰り返す特徴があります。
靴のタグから出た糸が気になっていた柴田さん。支援スタッフは本人が動き出すまで待ちます。
アトリエに到着して30分後。柴田さんは作業を開始しました。一度ペンを握ると、集中して何度も何度も線を重ね作品を描きます。
柴田さんにとっていちばん大事なことは、ここに来て毎日作品を描くこと、向き合うことだと思っているので。一人の人間として、自分の好きなことをとことんやりきる人だなって思います。
柴田さんが20年以上繰り返し描き続けるこの作品。ニューヨークで個展を開くと完売するほど人気です。
責任者の宮本恵美さんです。アートを活動の柱にしたきっかけは、孤立していた、重度障害のあるひとりの利用者でした。
彼女が描いた個性あふれる絵。宮本さんは、アートなら、社会とつながることができるのではと考えました。
その人にしかできないこととか好きなこととか。職員が一生懸命関わって寄り添って見つけていこうって。
創作によって自信を深め、社会とつながりはじめた人がいます。
羽生田優さん。ダウン症です。人づきあいが苦手なところがあります。
支援スタッフは羽生田さんが打ち込める表現方法を10年以上ともに探し続け、ようやく出会ったのが刺しゅうでした。
羽生田さんの作品の魅力は、ほかに類を見ない大胆なデザイン。作品は施設内で話題となり、苦手だった人づきあいにも変化がみられるようになりました。
優さんの中で自信につながって、みずから関わりを持つようになったりとか、会話、コミュニケーションも増えましたね。
スタッフは、羽生田さんの作品を施設の看板商品であるカレンダーに採用。施設の外からも企画が持ち込まれるなど、活躍の場が広がっています。
アート活動を通して障害のある方たちのことをもっと知っていただきたい。それを見た一般の人とかいろんな方達がそれを通してちょっと心が豊かになったり、励まされたり、いろんな人たちがつながっていくといいなと思っています。
「せっけんのせ」を描く柴田さん、刺しゅう作品を創作する羽生田さんの作品は、開催中の さいたま国際芸術祭の関連イベントなどで、11月29日から埼玉県立近代美術館で展示される予定です。