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きじまりゅうたの都市農業×TOKYO ~練馬編~

  • 2023年12月6日

都市の中で行われている農業=「都市農業」がいま注目されています。
都市農業の可能性に注目する、東京生まれ東京育ちの料理家・きじまりゅうたさんが東京の農業の魅力を探る、新コーナー!
1回目は、練馬区です。
さて、どんな発見や料理が飛び出すのでしょうか?

東京23区内で農地面積が一番広い練馬区で、先月(11月)、「全国都市農業フェスティバル」が開かれました。会場は、多くのお客さんで大盛り上がり!

全国24都市の農産物や加工品などが販売されました。
中でも人気だったのが、練馬区が誇る特産の“練馬大根”

全体が白く、辛みが強い「白首大根」の一種で、ほかの大根に比べて、根が70cm~1mぐらいと長く、身がしまっていて歯ごたえがいいのが特徴です。
現在では生産量が少なく、一般の市場に出回ることが少ないため、幻の大根とも言われています。

この練馬大根、2日間で、2,750本を完売しました!

会場では、あらゆるところで練馬大根が大人気!

こちらは…練馬区の冬の風物詩。
木につるして大根を干す昔ながらの風景を再現!

写真を撮っている人たちもいました。

イベントでは、都市農業のこれからを語り合うトークライブも!

そこに登場したのが、料理家のきじまりゅうたさん!

全国各地で都市農業に取り組む農家さんたちと、熱いトークが繰り広げられました。

そこで出会ったのが…

練馬区の若手農家・酒井雅博さん。

同世代の2人は意気投合。
後日、きじまさんは、酒井さんの畑にお邪魔することに。

住宅街にある酒井さんの畑を訪れ、まずは、その立地に驚くきじまさん。

きじまさん

めっちゃ町なかじゃない?こんな畑越しに見るマンション!ショッピングモールもあって。(横を)通勤バスも通っている!

丹リポーター

ここで農業をされているんですね?

酒井さん

そうですね。もうずっともう前から。

 

何代目ですか?

 

僕で6代目ですね。

 

6代目ということは、初代は?

 

江戸の末期。

酒井さんの46アールの畑では、季節に合わせて、年間25種類の野菜を育てています。

 

都内の農家は、みんな自分で売りに行くので、そうすると1品目だけだと彩りがあんまりよくないので、いろんな品目を作って、スーパーとかJAの直売所とかに出しに行く。

 

1個の食物をドンって出すっていうよりは、1年間を通していろんなものが常にあるみたいな感じですか?

 

そうですね。よく少量多品目って言われているような、栽培体系になっています。

酒井さんにこの時期おすすめの作物を教えてもらいました。

☆里芋

きじまさんも収穫に挑戦!

里芋が大好きだという酒井さんは、栽培に力を入れています。
先日行われたJAの農業祭の品評会に出品した里芋が、見事特賞を受賞!1位になったんです。

その秘訣を聞いてみると…

 

関東ローム層で黒ボク土で、すごく土もいいですし、やはり昔から土作りをずっと、昔のご先祖様が一生懸命やってきていて、その蓄積があるおかげで、今でもしっかりとしたおいしい野菜ができるんだと思いますね。

☆大根

酒井さんは、特産の練馬大根をはじめ、一般的な品種の青首大根、そして大きいのが特徴の三浦大根も育てているんです。
いま収穫時期を迎えている、練馬大根と青首大根を収穫することにしました。
まずは、練馬大根から!

高校時代アメリカンフットボールで鍛えたきじまさんでも、なかなか抜けません。

やっと抜けましたが、先が折れてしまいました…。

一方、青首大根は―

片手でサクッと抜けました。

左:練馬大根 / 右:青首大根

青首大根より長く、地中深くまで根を張る練馬大根は、とにかく引き抜きにくいんです。
かつては、漬物用の大根として生産されてきましたが、食生活の変化から、だんだん作られなくなってしまいました。

 

青首大根と比べて作りにくいし、需要がない、育てにくい、もう収穫がすごく大変っていうのがあって、1回途絶えたんです。
僕の父の年代が“復活させよう”と言って、種がつくばの研究所にあったので、それをちょっと借りしまして、まず植えて作って、その大根から種をとって、どんどん増やしていって選別していって、練馬大根を復活させた。

酒井さんの農園では、毎年地元の小学生に練馬大根の種まきから収穫までを体験してもらい、食の大切さを伝えています。

 

地域にこういう畑がある。そして、自分たちが住んでいる土地の名前がついた大根がある。その大根をここで育てないともう“練馬大根”って言えないよねって。違うところで作っても。
絶対残さなきゃいけないじゃなくて、やはり子供たちが“畑がある方がいいよね”って思ってもらえるような形で伝えていければいいなと思っています。

伝統を守る一方で、新しい農業にも取り組んでいます。
去年から使い始めた、こちらの肥料です。

八王子市の牧場の牛のふんを使っています。

栄養価の高いカカオ殻やコーヒー豆・皮などが含まれていて、コーヒーの消臭効果で牛ふん特有のにおいも抑えられ、都市農業にはピッタリなんだそうです。

 

東京にも牧場があって、牛がごはんを食べて、牛ふんから堆肥になって、その堆肥を畑にまいて、栄養を吸った野菜をまた都民の人に食べてもらう。
それで循環ができるんじゃないかなと。
都内でもそういう循環的なものができるんだよっていうのを言えたらいいのかなと。

 

都内だけで回っていますもんね。
移動が少ないからそういう環境負荷も少ないですもんね。

 

そうですね。やっぱりCO2の排出量が少なくなるしみたいな感じです。

都市農業は、地域に住む人たちにとってもメリットがあります。
防災の機能があるんです。

東日本大震災のとき、近所の人たちが余震から身を守るために、酒井さんの畑に避難してきたんだそうです。

 

建物がいっぱいあると、外に避難しても、どうしても電柱などが倒れてくる危険性があるんですけど、こういう畑(広い土地)があると、ものが倒れる心配もないので、倒れてきても当たる心配がないので、それだけで畑のある効果の1つが発揮されるのかなと思います。

酒井さんときじまさん、東京で育ってきた2人が思う、都市農業の未来とはー。

 

もう今のこの時代、本当に(都市の農地が)どんどん少なくなって、これってもう今やっている人が頑張るだけじゃ将来にこれを残すってなかなか難しいと思うんですよね。個人の努力だけでは。

 

そうですよね。僕たちだけの努力だと、やはり1人だと限界があるので、それこそ地域のみなさまとか、いろんな人たちを巻き込んで、“こういう農地があるっていいよね”っていうのを、みんなに知ってもらうのがいいのかなと思いますね。

 

なるほどね。みんなが“農地があるっていうことはいいよね。でもこのいい農地を残すんだったら、われわれもなんか参加してできることってなんかないかね”ってことをみんな1人1人がもうちょっと気づいていってくれると、もうちょっとやりやすくなるかもしれないですね。

さぁここからは、きじまさんの練馬大根を捨てることなく使い切るアイデア満載の簡単料理です!
練馬大根以外の、ほかの大根でも応用できます!

【塩もみ大根の炒め物】
~塩もみして水けを絞り炒めることで、時短でパリパリ食感に!~

<材料>(2人分)
・練馬大根 … 10cm(400g)
 ※ほかの大根でも代用可
・豚ロース肉(しょうが焼き用) … 150g
・ねぎ … 3本
・塩 … 小さじ1
・ごま油 … 大さじ1/2

<A>
・しょうゆ … 大さじ1
・砂糖 … 大さじ1/2
・みりん … 大さじ1/2

・ごま油 … 小さじ1/2

<つくり方>
1.大根は半分の長さに切って厚めに皮をむき、7~8mm厚さの半月形に切り、ポリ袋に入れて塩を絡めて、空気を抜いて15分ほどおく。水けを押し絞る。

2.ねぎは5cm長さに切る。豚肉は5cm幅に切る。

3.フライパンにごま油大さじ1/2を入れて豚肉を炒める。

4.色が変わったら<A>を加え、汁けが飛んできたら大根を入れて2分ほど炒める。ねぎを加えてサッと炒める。ごま油小さじ1/2を加えて香りをつけ、器に盛る。

【皮のパリパリきんぴら】
~皮も洗っておいしくいただく!SDGsに貢献~

<材料>(2人分)
・大根の皮 … 10cm分
・いりごま(白) … 小さじ1
・赤とうがらし(小口切り) … 適量
・ごま油 … 小さじ1
・砂糖 … 小さじ1
・みりん … 小さじ1
・しょうゆ … 小さじ2
・塩 … 小さじ1/4

<つくり方>
1.大根の皮は5mm幅の細切りにする。

2.フライパンにごま油を入れて、赤とうがらし(小口切り)と大根の皮を炒める。

3.薄く焼き色がついてきたら、砂糖とみりんを入れて炒める。

4.しょうゆと塩を加えて、炒め合わせる。

5.仕上げにいりごま(白)を振る。

【葉っぱのふりかけ】
~葉っぱもいただく!下ゆでして炒めることで、苦みが抑えられる!~

<材料>(つくりやすい分量)
大根の葉・いりごま(白)・削り節・ごま油・砂糖・しょうゆ・塩 … 各適量

<つくり方>
1.大根の葉を熱湯で1~2分ゆでて水にとり、水けを絞り、小口切りにして再度水けを絞る。

2.フライパンにごま油を入れて、大根の葉をパラッとするまで炒める。

3.調味料を加えて味を調え、いりごま(白)と削り節を混ぜる。

 

大根を捨てるところなく余すことなく使ってもらったことが、すごくありがたいなあと思います。農家としても”捨てるところがないんだ!“と発信をしていきたいです。

 

大根も大きいものを丸々1本買っちゃって全部使いきれないなと思ったら、塩もみにしておけば、そのままちょっと寿命が持つわけですよ。
塩もみにしてからまた料理に転換していくと、すごく賞味期限ってグーッと伸びるので、そういうような工夫をわれわれ消費者もするとより楽しめるんじゃないかなって思います。

練馬区では、この前の日曜日(12月3日)、練馬大根引っこ抜き競技大会が開かれ、区民約380人が参加しました。

そこで引き抜かれた練馬大根 約4,000本は、翌日以降に、区内のすべての小中学校(98校)で給食の食材として出されました。

多くの学校で出されたメニューが“練馬大根スパゲティ”。
練馬区の小中学校では人気ナンバーワンの給食メニューなんですって。
地域に昔から伝わる伝統食材を子どもたちに食べてもらうことで、食育にも活用されています。
※区のホームページで、“練馬大根スパゲティ”の作り方が紹介されています。

 

【編集後記】
愛媛県の自然豊かな場所で育った私にとって、田畑があることはごく当たり前のことだったのですが、東京にやってきて、その貴重さ、尊さに気づかされました。
東京にも農地があり、それを守っている人たちのおかげでおいしい農産物が食べられる。その程度の知識だったのですが、今回の取材を進めていくと、都市農業への考え方が少し変わってきました。

農地があることで、新鮮な農産物が手に入るだけでなく、農業体験を通して交流の場ができ、そこから食育につながったり、防災の機能があったり、また緑地空間によってやすらぎや潤いをもたらしてくれたり、数えきれない効果を私たち住民にももたらしてくれることがわかりました。
でも、都会で農業をすることは、楽なことではありません。
周辺の地域住民のみなさんの理解も必要になってくるし、住宅街ならではのインコやネズミの獣害もあり、周りに高い建物ができると風向きや日照時間など畑の環境も変わってきてしまうため、常に柔軟な対応が求められるなど、地方とはまた違った苦労があることも見えてきました。

都内の農地は年々減少しています。都市農業を知り、守るために私たちができることとは何か、今後も見つめていきたいと思います。
まずは第1歩として、都内産の農産物をおいしく食べることで応援していきます!

リポーター 丹友美

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