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盗難車はどこに? 犯行拠点に迫る

不正ヤードの実態
  • 2024年04月19日

「車だけでなく数十年の思い出も盗まれた」。千葉市で愛車を盗まれた男性が私たちに語ったことばだ。
首都圏では自動車の盗難が多発している。去年、1年間に全国で起きた車の盗難事件5762件のうち、実に54%が首都圏の1都6県で起きている。なぜ被害が相次ぐのか。ある盗難事件を追跡すると、金属の壁に覆われた施設の一部が不正に使われている実態が浮かび上がってきた。

(千葉局/記者 上原聡太、首都圏局/ディレクター 神田翔太郎)

盗まれた車を追跡 思わぬ所で・・・

千葉県野田市でスポーツカーなどを貸し出す店を営む齋藤隆文さん。ことし1月、客に貸した車が野田市内で盗まれた。

提供:おもしろレンタカー

盗まれたのは、店で一番人気だった国産のスポーツカー、スカイラインGT-R。中古車市場では1000万円以上で取り引きされている。客から連絡を受けた齋藤さんはSNSで情報提供を呼びかけ。野田市に隣り合う茨城県坂東市での目撃情報を最後に行方が分からなくなった。

レンタカー店社長・齋藤隆文さん
「非常に愛着があり、会社を象徴する車だった。それが盗まれてしまったのは本当に悲しくて、残念でした」

 

事態が動いたのは、2か月後。盗まれた車が、野田市から60キロも離れた横浜港のコンテナの中から見つかったのだ。海外に輸出される寸前で、税関の職員がコンテナの中身と申告内容が違うことに気づき、発見された。

戻ってきた車は、一部の窓ガラスは割られ、鍵穴の周りも壊されていた。ナンバープレートも外された状態だった。誰が車を盗み、海外に売却しようとしたのか、事件の全容はわかっていない。

レンタカー店社長・齋藤隆文さん
「コンテナに入ってしまったら、ほとんどの盗難車は見つかっていない。私たちだけ見つかっていいのかなという後ろめたさもあって、素直に喜べないところがあります」

自動車盗難の背景に”不正ヤード”  壁の奥では何が?

しかし、別の事件の取材を進めると、首都圏で盗難が多発する背景が見えてきた。

千葉市内に住む男性。去年9月、25年以上乗ってきた愛車、スカイラインGT-Rを自宅駐車場で盗まれた。

愛車を盗まれた男性
「今もどこに行ったか分からず、いつでも車のことが頭の片隅にあります。そのままの状態で返ってきて欲しいのですが」

この事件は、去年9月と11月に犯行グループが逮捕された。私たちはグループが拠点にしていた場所を訪ねることにした。

そこは金属の壁に覆われて閉ざされた、「ヤード」と呼ばれる施設。車などを保管・解体する場所で、騒音や粉じんを防止するため、壁で覆われている。自治体に届け出が必要だが、事件に使われた「ヤード」は無届けだった。

実行犯として逮捕されたのは日本人と外国人のグループ4人。このうち1人のアフガニスタン人が管理していたヤードで4人は集合。犯行現場に向かったあと、盗んだ車をこのヤードに持ち込み、ナンバープレートの付け替えなどを行ったとされている。

隣接する建物からヤードの中を見ると、解体された車や部品が山積みになっていた。
金属の壁で周りから見えづらい構造を悪用したと見られている。

グループが盗んだ別の車の1台は解体途中の状態で見つかった。部品をインターネットオークションで販売し、多額の利益を得ていたとみられている。

千葉市の男性の車はまだ見つかっていない。男性は「車だけでなく数十年の思い出も盗まれた」と話している。

愛車を盗まれた男性
「犯人に対する怒りがあります。これまで25年、大事に乗ってきた思い出のある車を、お金のためだけに持っていかれるのは本当に悔しい」。

増加するヤード 実態の把握が困難に

首都圏で相次ぐ盗難事件の背景には、こうした不正に使われるヤードの存在があると警察はみている。摘発を強化してはいるが、千葉県内のヤードの数は少なくとも700か所以上。無届けも含めると実態を把握することは困難だという。

こうした現状を、ほかのヤードの経営者はどう考えているのか。10件以上のヤードに取材を断られるなか、アフガニスタン出身の男性が取材に応じてくれた。男性のヤードでは、正規のオークションで中古車を購入し、部品を国内外で販売しているという。

男性は届け出をして、20年以上経営しているが、同業者が年々増え、実態がわからないところもあるとしている。

アフガニスタン出身のヤード経営者
「隣の人の名前もしらない。どこから来たかも知らない。なんで犯罪を犯すのか理解できない」

海外での日本車人気の高まりで"不正ヤード"増加に危機感

業界団体も不正なヤードが増えることに危機感を抱いている。
自身もヤードを経営している酒井康雄さんは、日本車の人気の高まりが拍車をかけかねないという。

日本自動車リサイクル機構 酒井康雄 代表理事
「日本の車は世界中で非常に人気がある。ただ、そうした魅力的な商材を求めて集まってくる人のなかに、順法精神に欠けた人たちも吸い寄せられて集まってしまう。行政や警察も手が回らないという問題を抱えていると思う」

千葉県は条例制定も 無届けヤードで不正か

こうした問題は以前から指摘されている。千葉県は10年前に自動車ヤードに関する条例を制定し、ヤード設置の届け出を義務づけた上で、県や警察が施設に立ち入って検査できるようにした。ヤードの”実態の把握”が進むことが期待された。

しかし、捜査関係者によると、最近は以前のように立ち入りで盗難車が見つかることはほとんどなくなったという。一方、今回取材したように、盗難車が無届けのヤードから見つかるケースが確認されてきているという。捜査関係者は「捜査で浮上した人物の関係先を調べていくと、警察も把握できていない無届けヤードにたどりつくことがある。目立たないとどうしても気づきにくい」と話していた。

千葉県内のヤードのおよそ6割は佐倉市や四街道市などの印旛地域に集中し、確かに今回取材した不正なヤードは、ほかのヤードの中に紛れて分かりづらい場所にあった。また、山奥にあり、そもそも存在に気づきにくい所もある。

千葉県や警察は、無届けのヤードの把握を進めて、届け出を行うよう指導を続けるとしているが、そうした取り組みに加えて、業界団体や自治体、警察などでつくる協議会を活用して情報交換を密に行うことで、不正な一部のヤードをたえず浮かび上がらせていくことが必要だと感じた。

  • 上原聡太

    千葉放送局 記者

    上原聡太

    2018年(平成30年)入局 長崎局を経て千葉局 現在は警察取材、災害取材を担当

  • 神田翔太郎

    首都圏局 ディレクター

    神田翔太郎

    2018年(平成30年)入局 社会番組部、津局を経て2023年から首都圏局。 環境問題や宇宙ビジネスに関心。

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