「母になるなら、流山市。」「父になるなら、流山市。」
このキャッチフレーズを知っていますか?ファミリー層の移住を呼び込もうと、流山市が2010年に打ち出しました。
このPRは大ヒットし、流山市は6年連続で人口増加率が全国トップに。一方で、子育て世代が急増したことによる課題も、地域では表れています。
(千葉放送局東葛支局・間瀬有麻奈)
秋葉原から「つくばエクスプレス」で約30分の「流山おおたかの森」。
この地域、元は田畑や林が広がっていました。
しかし、2005年に「つくばエクスプレス」が開通すると、駅の周辺から宅地開発が進み、大型の商業施設もオープン。
市は、移住者を呼び込むために全国の自治体で初の「マーケティング課」を設置し、子育て支援策も充実を図りました。
2010年からは「母になるなら、流山市。」「父になるなら、流山市。」のキャッチフレーズで、共働きの若い世代をターゲットにPRを展開。
すると、都心から遠くなく、当時は住宅価格が比較的安かったこともあり、PRは共働きの若い世代に刺さりました。いまでは、街の至る所で子どもたちの姿が見られます。
人口増加率は6年連続(2016~2021年)で全国トップになり、人口は、この10年間で16万人→21万人に急増しました。
現在、市の人口の3割は30~40代の子育て世代です。小さな子どもをもつ保護者の会には、大勢の移住者が参加していました。
東京の実家に近く、東京よりもごちゃごちゃしていないということで、移住してきました。
子育て支援に力入れていて、保育園も比較的入りやすいのがいいです。
結婚後は都内の賃貸住宅に住んでいましたが、一戸建てで探すと都内では見つからず、流山に移ってきました。
街に子育て中の人が多いので、すごく心強いです。
移住者の1人を訪ねました。8年前に都内から移住してきた峰松さんです。
妻と小学5年生の長女、4歳の長男の4人暮らし。広々とした環境で子育てができる上、都内の職場にも通いやすいことから、移住を決めたといいます。
子どもが家の中でも、ある程度自由に遊べるようにということで、流山に戸建てを購入することにしました。
流山には、以前から住んでいた人、東京から移住した人と、いろんな人がいるので、いろんなことができるというのが一番のよさだと思っています。
一方で、流山市では宅地開発がある程度進んだことから、移住人気はピークを越えてきています。
そして、地域では、同じ世代の移住者が急増したことの「ひずみ」も出てきました。学校で、子どもたちの受け入れが限界になってきているのです。
「流山おおたかの森」の中心部に近い「小山小学校」では、全校児童約1700人、学年によっては9クラスがあります。
こうした状況に、市は3年間で小中学校5校を新たに建設。学区の見直しが頻繁に行われるようになりました。
移住者の峰松さんも、この影響を受けました。長男は再来年、小学生になりますが、学区が変わったことで、現在長女が通う学校に通うことはできません。
勝手を知る近くの学校ではなく、様子の分からない、遠いところに通わなければならない。峰松さんは、そのことに疑問を感じたといいます。
正直に言うと、学区の変更に納得できませんでした。なぜなのか、というところから地域の課題に関心を持つようになりました。
地域の課題に目を向けるようになった峰松さんは、ほかの保護者の声も聞きたいと、SNSを活用してグループを立ち上げました。
その中で気づいたのは、保護者が共通して、子どもたちの安全に関する懸念を持っていることでした。
毎朝、通学路では1700人が一斉に登校しています。交通量が増加する中、子どもが車と接触しかけるトラブルも起きました。
グループで通学路の危険な場所についてアンケートを取ったところ、信号機の運用改善や、道路標示が消えかかっていることなど、さまざまな声が寄せられました。
移住者が多く、元はつながりが薄かった保護者たち。実は、同じ地域に住む保護者として、共通する課題感を抱えていたことが分かりました。
寄せられた声を元に、グループとして行政に改善を要望。その結果、歩行者の青信号の時間を長くしたり、ドライバーに注意を促す道路表示を増やしたりすることにつながりました。
グループでは、日常的にさまざまな情報共有が行われるようになり、SNSの参加者は1000人規模まで拡大しています。
これだけ子どもが多くて、保護者はその2倍いるので、6年間知り合わない保護者たちもいます。
けれども、グループで双方向のやり取りができるようになったので、安心感に繋がっています。
峰松さんは、今後もさらにつながりを広げ、地域をより「住みよく」していきたい考えです。
峰松拓毅さん
この地域は移住者が多く、変化に柔軟だったので、新しいグループで意見を募るやり方も受け入れてもらいました。地域を変えていく方法というのは、子どもの見守り以外のテーマでも、そんなに変わらないと思います。今後も、住みやすいまちづくり、安心安全なまちづくりに、少しでも貢献できればと思っています。
「午後LIVE ニュースーン カミングすーん!」での放送は、「NHKプラス」で3月14日(木)午後5時までご覧いただけます。