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梨の「火傷病」 中国で発生 花粉の輸入停止で緊急対策 千葉の“ナシ”は来年“アル”のか!?

  • 2023年11月07日

全国一の梨の産地、千葉県の2023年の梨シーズンは終わりましたが、梨農家は来年の生産に向けて不安な日々を送っています。

その理由は、中国産の花粉の輸入停止です。千葉県では多くの梨農家が使っていますが、現地で「火傷病」という果樹の病気が広がり、2023年8月から輸入停止になりました。このため、人工授粉のための花粉が足りなくなるおそれがあるといいます。

花粉不足で懸念される梨の生産。農家や行政などが対策に乗り出しています。

(千葉放送局記者・金子ひとみ)

中国で確認!「火傷病」とは

千葉県内の梨農家を今、揺るがせているのは、「中国で火傷病の発生が確認されたため、中国産の花粉や苗木の輸入を停止する」という国の措置です。

火傷病で枯れたセイヨウナシの枝

「火傷病」は、梨やりんご、びわなどの果樹の枝や葉が、火にあぶられたように枯れてしまう病気です。感染した枝の先端は下に曲がり、「羊飼いのつえ」と呼ばれる特徴的な症状を示します。

火傷病に感染したセイヨウナシの幼果

韓国で2015年に初めて発生が確認され、その後、発生地域が拡大。2021年から中国内陸部の新疆ウイグル自治区や甘粛省でも発生していることが、2023年になって判明しました。

感染力が強いため万が一、日本国内で火傷病が確認されると、植物防疫法に基づいて広く伐採することが必要で、しばらくの間、作付けも禁止されます。

このため、国は2023年8月30日から、「火傷病菌の我が国への侵入防止に万全を期す」として、中国産花粉の輸入を停止することになりました。

欠かせない「中国産花粉」

中国産の花粉は、どの程度、日本の梨の生産に使われているのか。

人工授粉作業、太陽に向かって作業するので日よけ対策が必須

梨の主要品種は、放っておけば自然に実がなる訳ではありません。例えば、人気が高い品種の1つ「幸水」の実をつくるためには、「幸水」のめしべに、「豊水」など別の品種の花粉を手作業でつける必要があります。

人工授粉では「ぼん天」という道具を使う

このときに使う花粉は、実は、多くが中国から輸入されています。農林水産省によりますと、2022年に輸入された中国産の梨の花粉は606kg。国内で使われる梨の花粉全体の約3割に相当する量です。

梨の花粉と花

さらに、千葉県では特に中国産花粉が活用されています。

県が県内の梨農家に緊急調査を行ったところ、「例年、中国産の花粉を購入している」と回答した農家は、68%にあたる621戸に上りました(10月25日時点)。この割合は、ほかの主要産地より多いとみられています。

梨農家 岡本絢吾さん

中国産花粉は10gあたり4000~5000円ほどで、毎年大量に使います。

中国からの輸入停止は覚悟していましたが、「火傷病」が理由と聞き、長引くのではないかと心配しています。

対策は「花粉の自前採取」

「このままでは来年、千葉県産の梨の生産量が大きく落ちてしまう」。

こうした危機感から、千葉県は10月27日、「なし授粉用花粉確保等緊急対策本部」を設置。梨農家に対して、花粉を自前で採取するよう強く呼びかけています。

県は、効率的な花粉採取の方法などを資料にまとめました。内容を抜粋します。

花を取る作業

▼ 千葉県の主要品種「幸水」「豊水」「新高」「あきづき」の受粉には、「長十郎」「松島」「鴨梨」「平塚16 号(かおり)」「ゴールド二十世紀」「新興」等の花粉が特に適している。「新高」及び「石井早生」の花粉は適さない

▼ 6gの純花粉を得るために、8.3kgの花が必要(「長十郎」で花粉精選器を使用する場合)

▼ 花粉採取用切り枝を農業用ハウスで保温するなどして開花を早め、花粉を早めに採取できるようにする

▼ 風船状のつぼみや開花直後の花を採取すると、発芽率が高い花粉が得られる

▼ ミツバチを利用すると花粉の節約につながる

▼ 人工授粉の作業では、「着果させる花のみを狙って丁寧につける」「梵天(道具)はぬれたら直ちに交換する」などの工夫が必要

赤い粒は「やく」という雄しべの先の袋。温めて「やく」から花粉を取り出す
梨農家 岡本絢吾さん 

1kgの花からは10gにも満たない花粉しか取れません。また、実がなるために残すべき花もあるので、やみくもに花を摘めばいいというわけではありません。

有効な花粉を得るにはタイミングも重要で、かなり難易度が高い作業です。人手も必要ですし、経費もかかるし、大変にはなります。

しかし、交配は梨の形を決める非常に重要な過程なので、来年も美しくおいしい梨を届けられるように、しっかり取り組みたいです。

現在、国や県では、花粉の自己採取に使う機械の購入を支援する方法について検討が進められているほか、千葉県園芸協会と千葉県養蜂協会との間で、ミツバチの確保について協議が行われています。

千葉県は、梨の栽培面積、生産量、産出額ともに日本一

また、「火傷病」の侵入を防ぐため、中国産花粉は在庫があっても使用せず、梨の木に疑わしい症状が出た場合は、速やかに連絡することなどを呼びかけています。

県民のみならず、多くの人たちに愛される千葉の梨。来年も例年通りの生産ができるのか、その行方に注目が集まっています。

  • 金子ひとみ

    千葉放送局記者

    金子ひとみ

    今年も梨の食べ過ぎで増量。

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